研究課題/領域番号 |
15KK0129
|
研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
平井 真洋 自治医科大学, 医学部, 准教授 (60422375)
|
研究期間 (年度) |
2016 – 2019
|
キーワード | 発達 / 定型発達 / 身体動作 / 高密度脳波計測 / コミュニケーション / 発達モデル |
研究実績の概要 |
本研究では、若手研究(A)プロジェクト「他者の動きに埋め込まれた社会的情報の処理機構とその発達」を更に発展させ、他者の動きに埋め込まれた社会的情報を乳児がどのように処理し、それが発達に伴いどのように変化するかについて明らかにする。ロンドン大学バークベック校脳認知発達センターは乳児の認知発達研究のメッカであり、当該施設において整備されている高密度脳波計測装置を用いることにより、他者の動きに基づく乳児の物体学習における神経機序を明らかにすることを目指した。さらにそれら実験によるデータに基づき、他者動き知覚発達に関する理論モデルを構築することを目的とした。申請者らはこれまで、4ヶ月児は垂直方向の腕振に比べ水平方向の腕振りを選好し、9ヶ月乳児は水平方向の腕振りを利用して物体を学習することを見出している。 本研究ではこれら申請者知見を発展させ、身体動作に基づく物体学習の神経機序について検討した。具体的には9ヶ月児を対象に、身体動作に基づく学習成立時の神経活動を高密度脳波計によって計測した。実験では、提示する身体動作の違いを被験者間要因とし、前頭部ならびに側頭部の脳活動に焦点を当て、両群の差異を検討した。さらに、これら知見に基づき、身体動作知覚に関する発達モデルを構築した。本モデルは、先行研究において構築された顔・視線に関する発達モデルを参考に、2つのシステムからなる他者の動き知覚発達モデルを構築した。本モデルは既存の知見を十分説明可能な理論モデルであり、論文としてまとめ投稿し、現在査読中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
英国ロンドン大学バークベック校脳認知発達センターにおいて9ヶ月児を対象とした高密度脳波実験を実施した。身体動作の種類を被験者間要因とした実験を実施し、計94名の参加協力を得た。先行研究に基づき、前頭部ならびに側頭部の周波数成分に焦点を当て、現在解析中である。さらに計画書に記載の通り、他者の動き知覚に関する発達モデルを構築した。他者の動き知覚発達モデルは、先行研究において提案されている2つのシステムを参考に構築した。1つ目のシステムは、生物学的な動きを検出するシステムであり、もう一つのシステムは他者の詳細な特性を検出するシステムである。各システムの特性は先行研究において見出されている処理特性を反映したものとし、これまでの知見を矛盾なく説明可能なモデルである。本モデルに関する論文は現在投稿中である。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は身体動作、特に腕の動きに埋め込まれた社会的信号の特性と学習への影響について、その神経機序を解明することを目的とした。今回の研究計画では、身体動作の方向に着目し、それを操作した実験を実施し、特定の脳波成分がどのように変調するかを検討した。しかしながら、実社会では、動作それ自体だけでなく、環境の要因も重要である。したがって今後は、身体動作に埋め込まれた社会的情報だけでなく、環境、動作をシステマチックに操作した実験を実施し、各要因がどのように物体学習に影響を与えるか特定する。更に、本研究計画において構築した他者動き知覚発達モデルは、定型発達児を対象としたものであった。今後は他者の動き知覚特性がことなる非定型発達児を対象とした研究に対象を広げ、構築したモデルを非定型発達児、特に自閉スペクトラム症における他者動き知覚モデルを構築することを目指す。
|