研究課題/領域番号 |
15KK0132
|
研究機関 | 津田塾大学 |
研究代表者 |
柴田 邦臣 津田塾大学, 学芸学部, 准教授 (00383521)
|
研究期間 (年度) |
2016 – 2018
|
キーワード | 社会参加 / 障害者・児 / リテラシー / インクルージョン / テクノロジー / 共生 / 教育 |
研究実績の概要 |
現在、社会福祉領域においては、障害のある人・子どもじしんの「生きるための知・技法」が、どれほど重要なのかについて注目を集めつつある。本研究は、障害者・児の「生きるための知=リテラシー」の実証を、海外で応用的に連携し展開することで、「共に生きるための知=共生のリテラシー」として描き出し、共有するための方策を提示することを目的としている。 初年度は、本科研費の採択を受けて、さっそくアメリカに半年間、長期滞在しての研究を実施した。University of HawaiiのCollege of Education, Center on Disability Studies にVisiting Scholarとして滞在し、地域における多様性と障害者の社会参加について、充実したフィールドワークをすることができた。そもそもハワイを滞在先に選んだ理由は、アメリカにおけるDiversityの典型例として知られているからである。今次の在外研究では半年間の時間をかけて、アメリカの正式な州のひとつであり同時に辺境として貴重な多文化共存を実現させているハワイという、ユニークな社会における各種要因を、生活の中で育まれるリテラシーとして把握し、「共生のリテラシー」として描き出すという作業を実施した。それらの成果はShibata,etc.(2017)などの執筆に活かされた。 同時に、上記のリテラシーを蓄積し共有するための、データベースとタブレット・アプリの基本的な条件を整理し、その構想を進めた。在外研究からは、単純に生活スキルをデータ化するのではなく、それがどのような社会的な意義を背景としているのかといった、社会的なコンテクストを取り入れる必要が示唆されたため、障害児と社会参加の観点からシステム構想を組み直し改善された開発をめざすこととした。その成果はShibata(2016b)などで発表されている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の今年度の進展が、おおむね順調に進んでいると判断できる理由は2つある。 まず、初年度として実際にUniversity of Hawaiiに半年間滞在し、在外研究を実施することができた点である。Center on Disability Studiesには万全の体制で受け入れてもらえただけでなく、College of Educationにも望外の様々な機会を提供していただき、アメリカでの教育の内情への理解を深めることができた。またStateのEarly Intervention SectionやAssistive Technology Resource Centersにインタビューをしたり、School of Blind and Deafをはじめとするいくつもの教育機関にて調査ができるなど、「共生のリテラシー」把握のフィールドワークとしても、長期滞在ならではの成果を上げることができた。それらはShibata,etc.(2017)の土台になるとともにUofHでのResearch Meetingでも共有された。 もうひとつは、アメリカでのインクルーシブ教育を実際に体験でき、かつ、情報技術の導入のありようを本格的に知ることができた点である。正直に言って、技術的に日本と顕著に差がある点は、さほど多いとは言えない。しかし活用、その実践という面では、明確な格差があるとしか言えない。それらを本研究にどう取り入れるかについては、Shibata (2016b)などでも意識しているが、今後のデータベース・アプリの開発という意味でも、アメリカの実践を具体的に学べた点は、得難い成果といえる。 ただし重要なのは、その新たな気づきや成果をより具体的で広範囲な国際研究として連携させることである。そのため今年度はおおむね順調ではあるものの、当初の予想以上とまでは言えないと考え、自己評価とした。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度、在外研究を実施できたことで、今年度の研究推進に重要な手がかりを得ることができた。当初の目的どおり「共生のリテラシー」をめざすなかで、表面的な「テクノック」の収集ではなく、より社会的背景を深く押さえつつ、その共通点を探るような分析が必要であることがわかってきた。 ハワイにおいて多様性は、単に他者を尊重するといったもののみで構成されていたわけではなかった。アメリカという強力な関係的・文化的な共通基盤を背景に、その同一力を多様性の基盤にしている。そのような現実を踏まえてリテラシーのありようをもっと深めて論じなければ、それを具体的な形で抽出し、データベースとタブレット・アプリでの応用を実現させることができない。そのため今年度は、これまで検討してきたデータ収集の基準を再度見直し、そでに即した調査実施と開発をおこなう。 そのために今年度は2つの対応策によって改善を加えつつ、当初予定を発展させる形で研究を実施する。ひとつめは当初の「共生」「参加」に加えて、それを実現する方法としての「教育」というキーワードを全面的に取り入れるという改善である。アメリカでは「多様性」「共生」を実現するための「教育」が、学校だけでなく社会・地域レベルでも重視されていた。かつ近年ではそこにタブレット・アプリが積極的に導入され、EdTechとでも呼ぶべき様相を示している。本研究の「リテラシー」とはその意味で本質的に教育によって共有されるものであろう。これらの教育と情報技術の展開は、まさに本研究の実現形態ともいえるものであり、積極的に研究を進めていきたい。 もうひとつは、ハワイなどで培ったネットワークを生かした国際連携の推進である。昨年はホノルルにてShibata etc.(2017)などのResearch Meetingを開催することができた。これらの経験を生かしてさらにネットワーキングを進めたい。
|