研究課題/領域番号 |
15KK0132
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研究機関 | 津田塾大学 |
研究代表者 |
柴田 邦臣 津田塾大学, 学芸学部, 准教授 (00383521)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2018
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キーワード | 障害者・児 / リテラシー / 社会参加 / インクルージョン / 共生 / 教育 |
研究実績の概要 |
本研究は、障害者・児の「生きるための知=リテラシー」の実証を、海外と国内で双方から展開することで、「共に生きるための知=共生のリテラシー」として描き出し、共有するための方策を提示することを目的としている。 本年は本研究の2年目にあたる。実際には、昨年の長期在外研究の成果を再整理しつつ、国内での動向を考慮し、研究のより精緻化をはかる年度とすることができた。 その最大の成果は、共生のリテラシーの先進地であるアメリカと日本との差が、社会参加を前提にした「リテラシー学習環境の決定的な差」であったと結論づけることができた点である。リテラシーとは実態を厳密に措定しうるものではなく、むしろ生活環境全体が保有し支えうるものであることを実証することができた。その成果は柴田(2017)で指摘されているとともに、Augmentative Talent & Acceptable Community Conference 2017などによって発表されるなどの成果に結びついている。 そのような「リテラシーを形成する生活環境」という視点は、本研究の元となった科研費研究とあいまって、本研究の主眼でもあるタブレット・アプリケーションの方向性にも大きな影響を与えた。単にアプリ単体によってリテラシーの数値化を計るのではなく、それが利用される環境全体を視野に入れて、その環境形成を支えるようなアプリとして開発が進められた。その観点及び成果は、International Association for Development of the Information Society Digital Libraryに掲載された論文やPacific Rim International Conference on Disability and Diversityにおける報告などとして結実し、国際的な成果の発表が進められている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の今年度の進展が、おおむね順調に進んでいると判断できる理由は2つある。まずは、昨年度の長期にわたる海外研究から、無事に帰国し、その成果を受けて研究を進めることができた点である。昨年の調査の結果を精緻に分析する時間を優先するとともに、今年度も追加的にUniversity of Hawaiiにて調査を実施することができた。その結果として、Digital Library of International Association for Development of the Information Societyにfull paperとしてacceptされたり、Pacific Rim International Conference on Disability and Diversityで報告することができたりと、国際的にも評価を受けている学術学会の場にて、成果を公表することができた。 もうひとつは、アメリカにおける在外研究中の成果と本年度の調査研究の成果を合わせ、また本研究の元となった科研費などの成果と連続させて分析する時間をつくることができたことで、「学ぶ環境とリテラシー」という新たな分析軸を得ることができた点である。そのような観点から、連携先のCenter on Disability Studiesとも学習・教育といった新たな観点で関係を深めることができた。その成果は次年度の最終年度に花開くと期待している。ただし、今年度は上記の観点を受けたアプリ開発を終了させることができず、実地での試験も次年度での実施となった。そのため今年度はおおむね順調ではあるものの、当初の予想以上とまでは言えないと考え、自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
今年は本研究の最終年として、以下のように推進方策を立案し実行する予定である。大きく分けると「研究の国際連携」と「社会的提言」の推進である。 まず、在外研究したアメリカでのインクルージョンの動向と日本の現状の比較をすすめ、日本の現状に即した「共生のリテラシー」の具体的な提言を図っていきたい。例えば在外研究においては、障害のある子どもに対するAuthentic Educationという観点を学んだ。University of HawaiiのSpecial EducationにおけるScience Technology Engineering Math教育も、その一種であると考えられる。University of Hawaiiと連携して日本の実情にあわせてそれを活かし、具体的に導入していく準備を進め、社会的に提言していきたい。 以上に関連して開発しているアプリに、障害児・者が実際に「学ぶ」場で、社会参加に必要なリテラシーを収集し価値づけするために、自分が会話したりスケジュールとしたシーケンスに価値を付与したりする機能を搭載したが、それをより簡便かつ洗練させた方法を研究中で、今夏に実装する見込みである。今年度はそれらをフィールドで具体的に実証するためのフィールドワークを実施する予定であり、準備が進んでいる。 そして、以上の成果を社会的に、そして国際的に提言していく研究活動を計画している。具体的には昨年度、研究代表者とともに、University of Hawaiiの研究者、他大学の研究者との国際連携として実現したネットワークであるUniversally Designed Services for Rehabilitationなどの機会を、今年度は津田塾大学に招致するなどして連携を深めたい。また国際学会や英文ジャーナルなどへの投稿をとおして、国際的な情報発信に努めていきたいと思う。
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