研究課題/領域番号 |
15KK0132
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研究機関 | 津田塾大学 |
研究代表者 |
柴田 邦臣 津田塾大学, 学芸学部, 准教授 (00383521)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2019
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キーワード | 障害者・児 / リテラシー / 国際 / インクルージョン / 共生 / 学習 / タブレット |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、障害者福祉の領域において「必要な知識」が「必要な人」に共有され継承される方法の探索にある。特に海外と国内で双方から展開することで「共生のリテラシー」として描き出し、共有するための方策を提示するところに、本研究の特徴がある。 本研究の3年目にあたる本年は、3つの点で重点的に研究を進めた。まず1つ目は、初年度にUniversity of Hawaiiで長期在外研究をした成果を再整理しつつ、国内での動向をあわせて、リテラシー=「学習」という面に焦点をあてた理論研究と、それに基づいたアプリケーション設計をすすめることができた。私たちが能力=abilityを獲得する、ないしはされていると認識する場合、その社会的要因・技術的要因を見過ごすことはできない。本研究が明らかにしたのは、その静的把握だけではなく、リテラシーを「学び得ていく」過程において動的にも果たされなければならないという点である。この枠組は合理的配慮論から"Learning Roost"概念として整理され、実際にアプリおよびデータベースの開発をする際の、A)自立生活、B)学習、C)社会参加の 3要素として定式化し、その一部は柴田ら(2018)などで報告された。その成果を活かし共生のリテラシーを記録・抽出し、自分が参照したり他者と共有・コミュニケーションしたりできるようにするアプリケーションの開発をすすめた。研究協力者や関連研究者とのコラボレーションして、具体的なアプリケーションを製作して実証実験を行い、Shibata et al.(2019)として査読誌にアクセプトされている。最後に、以上の視角から潮流をおさえた研究の国際化をおこなった。University of Hawaiiから演者を招いた国際シンポジウムを開催するなど、成果が出てきている。以上をまとめ社会背景分析をあわせた結果が柴田(2019)である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の今年度の進展は、おおむね順調に進んでいると考えている。その理由は2つある。まずは、初年度の長期海外研究かの成果を活かし、本研究の元となった科研費などの成果と連続させることで、具体的な理論枠組を提案し、それに従ってアプリケーションの製作を進めることができた点である。そのため本年度は重点的に人件費に資金を使用した。アプリ開発の実証部は領域でも近年、注目を集めるResearch CommunityのJTPDにacceptされるなど、予想以上の評価を上げているといえる。また理論研究の成果は柴田(2019)に活かされたが、領域でもトップジャーナルと言っても良い雑誌に収録していただいたものであり、本研究の進展の価値を示していると考える。このように3年目を迎えて確実に成果を残しつつある。 もうひとつの理由は、本研究の国際的な面である。昨年度に引き続いて今年度も追加的にUniversity of Hawaiiと連携して研究を実施することができたが、今年度はさらにアメリカ本土でのソーシャル・インクルージョン面からの学習の劇的な展開に関する追加情報を入手することができ、本研究の進展に大きく寄与することができた。特に「学ぶ環境とリテラシー」という新たな分析軸を得ることができ、具体的には10月に連携先のCenter on Disability Studiesの研究者を招いての国際シンポジウムを開催することができた。ただ、そのなかで浮上してきたのは、アメリカを中心としたここ2~3年の"Inclusive Learning Revolution"とでも呼称するべき「障害者と学習」の国際状況の劇的な展開である。本研究の趣旨からいって、そのトレンドを把握せずに終了することはできない。その状況変化にあわせた追加の研究が不可欠となってきたため、当初の予定以上の進展とまではいえないと考え、同評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究がフィールドとする障害のある人の生と学びというテーマは、ここ2~3年でさらに激動の時代に入り、まさにターニングポイントを迎えようとしている。フロンティア・ランナーとして注目されているアメリカHigh Tech HighのInclusive Coodinatorに話を聞くことができたが、日本では発達障害の児童・生徒には向いていないと言われるアクティブ・ラーニングを駆使して、逆にASDの子どもを指導していた。このトレンドは、本研究が理論化してきた「共生のリテラシー」をLearning概念として具現化しているものといえるが、そのような評価はまだされていない。最終年度は本研究の成果を、急速に展開する国際潮流とマッチさせて、国際的にも評価いただける成果報告に繋げたい。具体的には19年6月の国際会議で招待報告をすることになっている。 本研究がもう一つの柱とする障害児とテクノロジーという観点で、急展開を遂げつつあるのが障害児学習におけるAIの活用可能性である。昨年の国際会議も障害者領域でのAI研究が一気に開花した感がある。今年は開発等の人件費に集中して、アプリ開発に目処をつけられたが、それを補う形でのAI活用は可能であるし、そのリスクも慎重に検討されるべきである。アプリから一歩踏み込み、具体的な障害者・児のテクノロジー利用の現代的意味を総体的に再考する研究として、本研究をまとめ上げる。具体的には現在acceptされた国際ジャーナル論文を完成させるとともに、追加で国際学会や英文ジャーナルなどへの投稿をとおして国際的な情報発信に努めたい。そのために昨年度、盛会に開催できた国際ワークショップを引き続き主催して、海外の研究者を招致しコラボレーションするなども進める。所属の津田塾大学が今年度から本研究の関連テーマで私立大学研究ブランディング事業に採択されたため、連携を深め相乗効果を図りたい。
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