研究課題/領域番号 |
15KK0135
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研究機関 | 立正大学 |
研究代表者 |
畢 滔滔 立正大学, 経営学部, 教授 (70331585)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2018
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キーワード | 市民参加型まちづくり / 1964年経済機会法 / 1966年モデル都市事業法 / コミュニティアクション事業(CAP事業) / モデル都市事業 / ポートランド市 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、アメリカ・オレゴン州ポートランド市に関する事例研究を行うことで、市民運動が活発でない都市において、市民参加型まちづくり制度が出現するメカニズムを明らかにすることである。事例研究の対象としてポートランド市を取上げた理由は次の通りである。同市では、1960年代後半までトップダウンの都市計画に対して大規模な市民反対運動は生じなかった。それにもかかわらず、今日のポートランド市は、市民参加型まちづくりが制度化された代表的な都市となっているからである。 平成28年度は2つの調査を行った。(1)ポートランド市役所の担当者、市民活動家、ポートランド州立大学の研究者に対してインタビュー調査を実施した。(2)ポートランド市公文書・記録センター(PARC)やポートランド州立大学図書館などの図書館において、ポートランド市のまちづくり、市民運動と政治家の活動について2次データを収集し、分析した。研究の結果は3点にまとめることができる。 第1に、連邦政府による政策は、市民参加型まちづくりの出現に重要な影響を及ぼす。1964年経済機会法と1966年モデル都市事業法に基づいて実施されたコミュニティアクション事業(CAP事業)とモデル都市事業は、政治面で保守的であったポートランド市において、市民参加型まちづくりが出現する直接的なきっかけとなった。 第2に、CAP事業とモデル都市事業が市民参加によるまちづくりの出現を促進することができたのは、連邦政府自身が、市民参加をうたった法律を制定しただけで終わらなかったことが大きい。連邦政府は、事業の実施方法について具体的な規則を示すとともに、自治体政府が規則を順守しているかどうかを点検した。 第3に、1960年代アメリカ社会で広がりを見せた様々な社会運動は、ポートランド市のまちづくりの手法が変化するための土壌を醸成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はおおむね順調に進展している、と評価する。その理由は2つある。ひとつは、計画した調査を実施したからである。もうひとつは、海外共同研究者との共同研究が計画通り進展しているからである。 平成28年度は5つのデータ収集と分析作業を行った。第1に、ポートランド市公文書・記録センター(PARC)およびポートランド州立大学図書館において、第二次世界大戦中およびその後、同市で計画された主要な公共事業に関する記録を包括的に収集し、分析した。第2に、オレゴン州歴史協会リサーチ・ライブラリおよびマルトノマ郡中央図書館において、第二次世界大戦後ポートランド市の市民運動および政治家の活動について2次データを収集し、分析した。第3に、ポートランド州立大学の研究者、ポートランド市役所における市民参加型まちづくりの担当者、市民活動家に対してインタビュー調査を行った。第4に、1960年代米国で高まった多様な社会運動およびリンドンジョンソン政権の貧困撲滅への取り組みが、米国大都市のまちづくりに及ぼした影響について、先行研究を幅広くレビューした。第5に、現地調査を通じて得られたデータを理論的に分析し、研究の結果を研究書『なんの変哲もない取り立てて魅力もない地方都市、それがポートランドだった:「みんなが住みたい町」をつくった市民の選択』にまとめ、研究書を出版した。 本研究の海外共同研究者は、ポートランド州立大学都市公共政策学部のSteven Johnson特任教授である。平成28年度Johnson教授と2回研究会を開催し、ポートランド市の市民参加型まちづくりについて、それぞれの研究結果を発表し、さらに、平成29年度以降の研究計画についてディスカッションをした。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、ポートランド州立大学で研究を行う。平成29年度は主に3つの調査・研究を実施する予定である。 第1に、ポートランド市における市民参加型まちづくりの特徴およびその影響について、同市のまちづくり関係者に対するインタビュー調査を実施する。インタビュー調査について、ポートランド市交通局の担当者2名、ポートランド市都市計画・サステナビリティ局の担当者2名、ポートランド都市開発局の担当者1名、住区(neighborhood)の環境改善を図る非営利団体の職員4名、起業家で市民活動家11名から、調査に協力する承諾をすでに得ている。平成29年度、共同研究者Steven Johnson教授(ポートランド州立大学)と共同でインタビューを実施し、また、インタビュー協力者を増やしていく予定である。 第2に、ポートランド市における市民参加型まちづくりが制度化してきたプロセス、さらに、市民参加型まちづくりの制度化が、ポートランド市の都市再生に及ぼした影響について、ポートランド市公文書・記録センター(PARC)、ポートランド州立大学図書館、オレゴン州歴史協会リサーチ・ライブラリ、マルトノマ郡中央図書館、オレゴン大学図書館(ユージーン市)、オレゴン州立大学図書館(コーバリス市)において2次データを収集し、分析する。 第3に、調査の結果を英文の報告書にまとめ、ポートランド州立大学都市公共政策学部で開催される研究会で発表する。これを通じて、研究の結果について幅広い分野の研究者からコメントを求める。 平成30年度は、研究の結果を英文の論文および、日本語の研究書にまとめる。英語の論文は、アメリカ都市計画学会(ACSP)で発表を行い、ACSPの査読付きジャーナルJournal of Planning Education and Researchに投稿する予定である。
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