研究課題/領域番号 |
15KK0135
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研究機関 | 立正大学 |
研究代表者 |
畢 滔滔 立正大学, 経営学部, 教授 (70331585)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2018
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キーワード | 草の根運動 / 有機農業 / まちづくり / オレゴン州 / ポートランド市 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、アメリカ・オレゴン州ポートランド市に関する事例研究を行うことで、市民運動が活発でない都市において、市民参加型まちづくり制度が出現するメカニズムを明らかにすることである。平成30年度ポートランド州立大学にて、同学都市公共政策学部Steven Johnson特任教授と共同研究を行った。具体的には、(1)社会運動、(2)有機農業と(3)まちづくりの関係について、実態調査と理論研究を行った。研究の結果は以下の4点にまとめることができる。 第1に、1970年代から脱工業化の進展により、かつて製造業で繁栄した米国都市の多くは衰退した。しかし、これらの都市のうち、1980年代から1990年代にかけて再生を遂げた都市もある。オレゴン州ポートランド市はその代表的都市である。 第2に、ポートランド市の再生をもたらした要因は、同市のクオリティ・オブ・ライフである。有機食品を販売する様々な小売施設・小売業、例えば、ファーマーズマーケット、消費者協同組合、有機食品スーパーチェンの発展や、エコ都市として快適な住環境は、同市のクオリティ・オブ・ライフを成す要素である。 第3に、1970年代からオレゴン州で本格的に発展し始めた有機農業は、ポートランド市の食文化だけではなく、エコ都市のイメージの形成と強化に大きく貢献した。 第4に、オレゴン州において、有機農業は政府の後押しを受けて発展し始めたのではなく、むしろ、第二次世界大戦後アメリカの支配的食品供給システムに対抗するカウンターカルチャーとして発展し始めたのである。 社会運動が市民参加、さらにまちづくりに及ぼす影響について理論的に検討したことは、本研究の理論的意義である。また、本研究の結果は、脱工業化時代で衰退した日本の地方都市に、米国都市の再生の経験を提供する。これは、本研究の実践的意義である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はおおむね順調に進んでいると考えられる。その理由は3つある。 第1に、実態調査が計画通り進展しているからである。平成29年度ポートランド州立大学にて、市民運動、有機農業とまちづくりの関係について、海外共同研究者である同学都市公共政策学部Steven Johnson特任教授と共同で2つの実態調査を行った。(A)オレゴン州における有機農業の発展および、ポートランド市における有機農業によるまちづくりについて、有機農家、ファーマーズマーケットの発起人とマネジャー、ポートランド市都市計画局のプランナー、有機農業とまちづくりにかかわる非営利団体の設立者・職員、活動家など計72名のキーパーソンに対してインタビュー調査を実施した。(B)オレゴン州立大学にて、オレゴン州における有機農業の発展に関するアーカイブ資料を収集し、分析した。 第2に、理論研究がおおむね順調に進んでいるからである。実態調査の結果に基づき、Steven Johnson特任教授とともに、(a)社会運動、(b)戦後米国の食品政策と土地利用政策の変遷、(c)脱工業化社会におけるライフスタイルの変化と都市再生の関係について、先行研究をレビューした。 第3に、研究の結果を広く社会に発信したからである。研究の結果として出版された研究書『なんの変哲もない取り立てて魅力もない地方都市、それがポートランドだった:「みんなが住みたい町」をつくった市民の選択』(白桃書房、平成29年4月)は、平成29年8月ポートランド州立大学で実施された「まちづくり人材育成プログラム:オレゴン州ポートランド市の事例から学ぶ住民主体のガバナンス」で参考図書として採用された。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は研究プロジェクトの最終年度である。平成30年度研究の重点を、これまでの調査と分析の結果をまとめ、和文の研究書および英文の論文の執筆におく。具体的には、以下の研究書および論文の執筆を予定している。 和文の研究書として、『カウンターカルチャーからメインストリームへ:アメリカ西海岸における有機農業の発展』を執筆する予定である。研究書の目的は、(a)社会運動、(b)アメリカ西海岸における有機農業の発展、(c)脱工業化社会におけるライフスタイルの変化、および(d)都市のまちづくり政策の転換といった要素間の関係を明らかにすることである。社会運動がクオリティ・オブ・ライフ、さらに都市再生に及ぼす影響について理論的に検討することは、本書の理論的意義である。農業・食によるまちづくりを図る日本の都市に、米国の経験を提供することは、本書の実践的意義である。 英文の論文として、共同研究者であるSteven Johnson特任教授と共同で3本の論文を執筆する予定である。(1)第二次世界大戦後消費者協同組合の発展および、それが小売業によるまちづくりに及ぼした影響に関する日米の比較、(2)戦後農業・食品供給政策に関する日米の比較、(3)戦後社会運動が食品供給システムに及ぼした影響に関する日米比較、という3つの論文である。これらの論文を通じて、戦後社会運動が食料品供給システム、さらに都市のクオリティ・オブ・ライフに及ぼした影響について、日米の相違を明らかにする。 研究の結果についてより多くの研究者からコメントを得るために、日本及び海外で開催される学会・研究会で研究の結果を発表する予定である。具体的には、平成30年5月第68回日本商業学会全国研究大会で発表し、8月Steven Johnson特任教授と共同でポートランド州立大学で研究会を開催する予定である。
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