本研究の目的は、市民運動が活発でない都市において、市民参加型まちづくり制度が出現するメカニズムを明らかにすることである。具体的には、1960年代から米国で高まった様々な社会運動に関する先行研究を幅広くレビューした上で、1970年代オレゴン州ポートランド市のまちづくりにおける市民参加の発生に関する事例研究を行った。 本研究から明らかになったのは、1960年代から1970年代にかけて米国における人口構成、社会および産業の変化が、1970年代以降市民参加のまちづくりの発生と制度化に寄与したことである。本研究の結論は以下の3点にまとめることができる。 第1に、1970年代、米国において、戦後生まれのベビーブーム世代は成人の年齢に達しつつあり、成人人口の構成が大きく変化した。 第2に、ベビーブーム世代は、その親の世代より高い教育を受けていただけでなく、参加民主主義について異なる経験を持っていた。彼らは、人権運動、ヒッピームーブメント、フリースピーチ・ムーブメント、ウーマンリブ、環境保護運動など、1960年代から米国で高まったさまざまな社会運動の中で成長し、またはそれらの運動に参加した。そのため、彼らは、参加民主主義に馴染んでおり、また、それに対する要求が高かった。彼らは、1970年代米国における市民参加のまちづくりの主要な参加者と支持者となった。 第3に、1970年代に米国の産業構造が大きく変化し、専門サービス業が製造業に代わって主要産業となった。こうした産業構造の変化により、都市専門職業人という階層が拡大した。こうした高い教育を受けた専門職業人は、政府部門、民間企業、あるいは非営利団体で勤め、また異なるタイプの組織に転職することが珍しくなかった。彼らは、1970年代以降米国のまちづくりにおいてリーダーシップを発揮したと同時に、市民参加の制度化の実現に大きな役割を果たした。
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