研究課題/領域番号 |
15KK0139
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
徳田 昭雄 立命館大学, 経営学部, 教授 (60330015)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2018
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キーワード | EU / 欧州委員会 / イノベーション / エコシステム / CPS / IoT |
研究実績の概要 |
組み込みシステムからCPS(サイバーフィジカルシステム)、そしてIoT(Internet of Things)へ。モノが繋がり付加価値を創出するSoSs(システム・オブ・システムズ)の時代にあって、新たなイノベーション・エコシステムの形成が必要になってくる。それに呼応して、EUでは欧州委員会主導のもと、官民パートナーシップを通じてARTEMIS、ECSEL、そしてAIOTIといったコンソーシアムが組織されてきた。コンソーシアムの組織化は、エコシステムの形成に必要な様々なリソースを効果的・効率的に糾合するための有効な手段である。 本研究では、そのようなエコシステムの形成のベースにある欧州委員会の考え方がアプリケーション・コンテクスト横断的なものを基礎としつつも、仮想垂直統合的なものへと変貌を遂げつつあることを確認した。GAFA(Googole、Apple、Facebook、Amazon)と称される米国企業を念頭においた「仮想垂直統合」は、ハードウェアから製造、システム設計およびSWエンジニアリングに至るまでの技術プラットフォームを取り仕切り、技術開発の成果を具体的なサービスやビジネスの成功に結び付けることの出来るGAFAのような市場のリーダーを待望し、その活動を奨励するものである。このような市場のリーダーが主導する垂直的なエコシステムが出現しない限り、水平的に専門化されたEUの産業界は競争劣位に立たされるとの危機感がそこにあった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今日、標準が及ぼす影響は個別企業のビジネスモデルや国際展開にとどまるものではない。IoT(Internet of Things)という科学技術的・政策的コンセプトに後押しされながら全てのモノが繋がる社会の到来とともに、標準は国際的であるとともに業際的・業界横断的な特質を帯びるようになっている。そして、これら業際的な標準の束がプラットフォームを形成し、新しい産業構造を形成しつつある。本研究では、標準に関わる研究についても、国際的かつ業際的な標準として、その特質を深く理解してきた。 他方、国際的かつ業際的な性質をもつ標準の策定には、それに応じた新しいエコシステム(ステイクホルダー間の分業に基づく協業システム)の形成が必須である。本研究では、IoTエコシステムの形成やCPS(Cyber Physical System)のエコシステムの形成に向けた産官学の連携メカニズムの実態調査を行い、その成果を『研究 技術 計画』vol.32, No. 3(2017)「特集・スマート社会の実現に向けたサイバーフィジカル・システム(CPS)研究」として纏めた。 また、本研究では、EUにおける「普遍的かつ抽象的な標準」の策定が標準化活動の起点になっているメカニズムを明らかにしつつある。すなわち、アカデミアから生み出された科学的知見、とくに横断型基幹科学技術(=具体的な製品も背景となる業界もない分野横断的な領域で、幅広い多くの分野に適用可能な普遍的な方法論の確立を目指す学問領域)をプラットフォームとして、そこから生まれる成果を先ず標準として確立し、その後、当該標準を個別の業界ごとにカスタマイズしていくプロセスをたどる。いわゆる「グループ標準から個別標準」への流れを明らかにすることができた。当初の標準化される仕様の抽象度は高く、業界横断的・汎用的な公知として広く参照されるがゆえに普及しやすい。
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今後の研究の推進方策 |
ポストHorizon2020にあたるFP9が「Horizon Europe(2021年~2027年)」と命名され、 欧州委員会により1,000億€の研究予算案が提起された。Horizon Europeでは前プログラムを継承し、学術研究、重要産業技術、社会的課題の3つが柱となる。しかし、3つの柱を支える官民パートナーシップ(PPP)は、そのデザイン思想が従来のいわゆる「分野またぎ」の水平的分業的な産業エコシステムの形成に向けたパートナーシップから、「仮想垂直統合と称されるものへの質的な変化である。 今後の研究では、徐々に輪郭を現しつつある次期フレームワークプログ「Horizon Europe」の中で、水平的分業的なものから「仮想垂直統合」へと変質しつつある産業エコシステムの形成プロセスの分析を行う。分析の対象は、「仮想垂直統合」に向けて新しい動きを見せつつある、組込みシステム分野のECSEL(ARTEMIS、EPoSS、ENIAC)および輸送分野のERTRAC(道路輸送研究諮問委員会)である。前者のECSELは、デジタル・バリューチェーンにおいて半導体からサービスまでの垂直的ソリューションの提供に存在意義があることを強調している。後者のERTRACは、MaaS(Mobility as a Service) を意識しながら、近年では鉄道分野のERRAC(鉄道輸送研究諮問委員会)などと連携しつつ統合的なモビリティサービスの実現に向けたエコシステムの形成に着手しはじめている。
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