日本と英国では、人口構成の高齢化に伴い薬局(Community Pharmacy)における種々のサービスの需要が急増している。しかし、日本では処方箋薬の調剤が中心的業務であるのに対し、英国では慢性疾患や軽度の疾病の相談も重要な業務となっている。これは、一般論として、英国の薬局薬剤師の方が医療の専門家として臨床業務に携わる機会が多いことを意味する。本研究では、「専門能力の発揮機会」(Opportunities to Demonstrate Expertise)と「職務満足」(Job Satisfaction)の関係性を明らかにし、両国の医療政策に関するインプリケーションを提示することを目的とした。 研究は、①リーフレット等必要書類の作成、②アンケート票・質問事項の作成・決定、③UCL研究倫理委員会からの承諾、④英国での質的調査、⑤日本での質的調査、⑥テープ起こし、⑦NVivoを用いた分析、⑧論文執筆、という方法・経過がとられた。 研究の結果、上記2つの間には強い相関関係があることが明らかとなった。特に、患者に対する臨床業務、他の医療の専門家との協同の臨床業務が強い職務満足を生むことが判明した。しかし、薬剤師のプロフェッショナリズムについて、患者や医師等から適切な敬意が払われない場合、これらの業務も職務満足を生むものとはならなかった。 日英比較の観点からは、総合的に勘案して、英国の薬剤師の方が「専門能力の発揮機会」に恵まれ、「職務満足」を実感する傾向が強かった。患者にとっては、処方箋無しで気軽に相談に行ける身近な医療機関で、それが薬剤師の満足に繋がるだけでなく、医療費の適正化にも資する状況になっている。本研究成果は、医療費の適正化の観点からも、薬局薬剤師のプロフェッショナリズムを今以上に活用することの重要性を示唆していると言える。現在、国際学術誌に投稿手続き中である。
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