研究課題/領域番号 |
15KK0146
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
柳澤 達也 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (10456353)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2018
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キーワード | 強相関電子系 / 物性実験 / 低温物性 / 磁性 / 超音波 |
研究実績の概要 |
本研究計画は平成29年3月中旬に交付申請を行い承認されたばかりである為、年度内に残された約半月は次年度(平成29年度)の海外渡航の計画とホスト研究者との最終調整作業に充てた.ドレスデン強磁場研究所のZherlitsyn博士と電子メールで議論し,次年度の希釈冷凍機と超伝導磁石のマシンタイムを確保した.また,EMFLのパルスマグネットの国際共同利用の申請書を提出し,ドレスデン強磁場研究所でのパルス磁石のマシンタイムも確保した.チェコ共和国カレル大学のセコフスキー教授,米国カリフォルニア大学Maple教授とも電子メールで議論し,平成29年度の滞在先での試料育成の実施計画をたてた. 本研究の対象物質PrNi2Cd20について,交付申請前に東北大学金属材料研究所で実施したハイブリッド磁石を用いた極低温弾性定数測定において予想外に得られた「音響ドハースファンアルフェン効果」が未解析であったため,基盤研究Cと連続した本研究のテーマと捉え,新たにそのデータ解析を行った. その結果,フェルミ面の局値断面積に比例する振動数として77 T, 295 T, 373 Tを得た.これらは残留Cdフラックスによる振動数である可能性もあるため,理論家にバンド計算を依頼し,その結果と比較して議論する予定である. 一方,北海道大学での超音波測定装置をより精度の高いものにするため,Agilent N5181A アナログ標準信号発生器を購入し,ヘテロダイン検波のローカル発信器として組み込んだ.また,カンタムデザイン社PPMSと14 Tの超伝導磁石を組み合わせた装置が北海道大学の「先端物性共用ユニット」としてオープンファシリティ登録されているため,その装置を用いた超音波測定システムの構築を始めた.これにより,海外で育成した試料を簡便にT > 2 K, H < 14 Tの温度・磁場領域で測定することが可能となる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の海外渡航計画および,現地での国際共同研究の遂行について,海外のホスト研究者との連絡調整は既に完了しており,本年度は国内で遂行できる予備実験や,渡航前の物品の調達等を進めてきた.一方,高次場領域の磁気相図の作成を目的に,交付申請前に行ったPrNi2Cd20の極低温・強磁場実験において,大変純度の良い試料のみで観測され得る「音響ドハースファンアルフェン振動」が観られたため,その解析を本研究のテーマとしてその量子振動の詳しい情報を得た.今後はそこで得られた知見を基に,カリフォルニア大学サンディエゴ校で新たに試料を育成し,試料依存性等を検証するために同様の実験を繰り返す予定である.また、ドレスデン強磁場研究所におけるパルス強磁場実験や,異なる磁場方向での磁気相図の検証等,研究の発展に繋げることができる.国内での装置開発も順調に進んでおり,概ね順調に推移していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度7月にチェコ共和国プラハで開催される強相関電子系国際会議の会期に合わせて1か月弱プラハのカレル大学に滞在し,研究発表並びにアクチノイドを含む対象化合物の試料育成を行う予定である.その直後,8月上旬に米国カリフォルニア大学サンディエゴ校に移動し,RNi2Cd20について,元素 R を他の希土類やアクチノイドに置換をした化合物の単結晶育成を行う予定である.それぞれ海外で育成に成功した試料は,現地で試料評価と成型を行った後に,適宜,北海道大学とドレスデン強磁場センターに移送し,それぞれの強磁場発生装置と組み合わせて超音波測定を行う. PrNi2Cd20の極低温の量子状態を明らかにするため,既に希釈冷凍機を用いた弾性定数の測定を行い,詳細な磁気相図等を得ているが,これまでに行った希釈冷凍機を用いた比熱測定では極低温・低磁場領域で相転移を示す明瞭な異常が観測されておらず,明瞭な弾性異常が現れた超音波実験の結果と整合性がとれていないため,未だ論文としての出版に至っていない.この問題に決着をつけるためには,Pr核スピンの寄与について異なる超音波モードの実験から検証することや,試料依存性を鑑みた極低温比熱実験の追試を行うことが必須である.その追試にはカリフォルニア州立大学フレスノ校のPei Chun Ho博士,ドレスデン強磁場センターのElizabeth Green博士に国際共同研究を依頼する予定である.それらの遂行が難しい場合は,日本国内の共同研究者と共同研究を行うことも視野に入れている.
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