研究課題
f電子を持つ希土類・アクチノイド化合物は,磁気・電荷・多極子秩序,異方的超伝導など特色ある量子物性の宝庫である.またf電子系化合物の新物質探索、新奇量子現象の発見、電子物性の発現メカニズムの解明は純良単結晶育成に始まり、多彩な実験手段を用いることで初めて可能となる。そのためには国内の1グループだけで大きく進展させることは難しい。本研究では、f電子系の磁性や伝導現象に関するマクロ物性測定、及び量子振動測定などの微視的手段を用いた研究に関して伝統と組織力のあるチェコのカレル大学、チェコ科学アカデミー物理学研究所、フランス原子力庁、フランス国立強磁場研究所とで国際共同研究を行い、スピーディーかつ効率的に研究を推進している。今年度の研究実績は以下の通りである.単結晶育成に成功した結晶構造に空間反転対称姓をもたないUIrSi3の低温、磁場中における物性をホール抵抗測定から明らかにした.また短い実験期間であったが試験的な中性子回折実験を行った.ホール抵抗測定は相転移の三重臨界点前後で大きく異なる振る舞いをしており,キャリアの状態の変化が低温・磁場中で見られる相転移に大きく寄与していることが示唆される。ウラン化合物の新奇超伝導体UTe2の超伝導の性質について、純良単結晶育成を行い、超低温における詳細な上部臨界磁場の測定を行いスピン三重項の超伝導が実現している可能性が高いことを突き止めた。さらに圧力下、強磁場下での研究を進めている。また本国際共同研究のメンバーを中心にこれまでの成果の公表やプロジェクトの紹介、そして今後の研究計画についての議論を深めるために2018年7月にプラハで国際シンポジウムを開催した(シンポジウムのWebページ: http://kfkl.cz/pcfes/tokimeki-2018)。参加者は内外の一線の研究者80名程度であった。
4: 遅れている
赤外線集中過熱によるFZ法により結晶構造に反転対称性を持たないUIrSi3の純良単結晶育成に成功し、物性測定や中性子回折実験を引き続き行なっているが、非対称なヒステリシスを示す奇妙なメタ磁性の解明のため、中性子散乱実験や量子振動測定などの追加実験などが必要となっている。UIrSi3の磁気構造の決定はとても重要であり、2018年度にフランスのラウエランジュバン研究所で中性子回折実験を行う予定であったが、課題採択時期の関係で、この実験が2019年度以降にずれ込むことになった。また作成したUIrSi3の純良単結晶についてリフシッツ転移と思われる奇妙なメタ磁性のなぞを解くフェルミ面の性質の解明のため量子振動測定などさらなる実験が必要であるが、実験施設のマシンタイムの関係やウラン試料の国家間の移送手続きが思いの外長くかかり、実験を行う日程が2019年度にずれ込む予定である。また新しく発見された新奇超伝導体UTe2の単結晶育成を行い、超伝導相図(上部臨界磁場)やメタ磁性に関する詳細な研究を進めている。ウラン化合物は国際間の持ち出しが難しい国際規制物資であるため、日本とフランスで独立に育成しそれぞれの研究施設で特色を生かした実験研究を行なっている。ウラン化合物の新奇超伝導体UTe2の超伝導機構の解明は急務であり、極低温、強磁場、高圧力のいわゆる複合極限環境下での実験が必要であり実験には多大な時間が必要であるため、現在の協力体制を生かして国際共同研究を効率的に進めているところである。
UIrSi3の電子状態の解明のための中性子回折実験、量子振動実験を進めて行く。中性子回折実験はフランスのラウエ=ランジュバン研究所の研究炉行う予定である。UIrSi3の量子振動測定はフランス国立強磁場研究所のI. Sheikin主任研究員とフランスGrenobleの強磁場施設(LNCMI-G)で行う予定であるが、まずはドイツのDresdenにある強磁場研究所Helmholtz-Zentrum Dresden-Rossendorf(HZDR)で予備実験を行うこととした。ここで現在の単結晶試料により量子振動が観測されればより強磁場を用いることのできるLNCMI-Gでフェルミ面の詳細について研究を行い、大きなスピン軌道相互作用を持つウラン化合物の反転対称性欠如によるフェルミ面の分裂について明らかにする。量子振動の観測に至らない場合は、試料のさらなる純良化のためのアニール処理や2019年夏にチェコのカレル大学に導入されるレーザー集中過熱式の炉によりこれまでより小さいが結晶性の良い単結晶の育成を試みる。そのほか、カゴ状物質や幾何学的にフラストレートした結晶構造を持つ物質の磁性と格子に着目した研究を引き続き行う。また、新奇超伝導体UTe2の超伝導相図やスピン三重項超伝導のメカニズムを明らかにするため、強磁場・高圧下における物性実験を進めていく。強磁場実験は、海外の強磁場施設HZDR、LNCMI-G、フランスToulouseの強磁場施設LNCMI-T、と国内の東京大学物性研究所、及び東北大学金属材料研究所の強磁場施設にて、また圧力下実験はフランスGrenobleのフランス原子力庁と東北大学金属材料研究所において申請者が主導して研究を進めていく。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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