日本に代表される沈み込み帯では、海洋地殻や深海底堆積物など、異なる起源をもつ揮発性成分が異なる量比をもってマントルへと沈み込んでいると考えられる。本研究はこれまで定量的に見積もることの難しかった希ガスとハロゲンの沈み込み過程を、最新のマルチコレクター希ガス質量分析計を用いた、世界各地の島弧のマントル起源かんらん岩捕獲岩の超精密同位体比測定をもとに理解することを目的としている。 本年度は、前年度の11月~12月にマンチェスター大学のBurgess教授のもとに滞在した間に分析を実施する予定であったが、ハロゲンを希ガスに変換するための中性子照射に用いた原子炉(南アフリカSafari-1研究炉)の運転スケジュールの遅延により分析できなかった、南米パタゴニア、カムチャツカ、フィリピン産のマントル起源かんらん岩捕獲岩から分離したかんらん石・輝石のハロゲン分析を、8月に再び渡英して実施した。 カムチャツカとフィリピンの試料においてはヨウ素に極めて富む、深海底堆積物中の間隙水に似たハロゲン組成を持つ成分が主であったが、一部の試料からは、変質した海洋地殻に見られる塩素に富む成分と、臭素に富む成分も見出された。一方でパタゴニアの試料にはヨウ素に富む成分はあまり見られず、中央海嶺玄武岩の分析から求められている、平均的なマントル中のハロゲンとされる成分と、塩素に富む成分と臭素に富む成分が見られた。 カムチャツカとフィリピンではプレートの沈み込みに起因する火成活動が起こっており、その直下のマントルには沈み込み由来の揮発性成分が多く供給されている。一方パタゴニアの下のマントルがプレート沈み込みの影響を受けたのは2億年より前とされていることから、間隙水由来のハロゲンはマントル中のハロゲンで上書きされやすい一方で、海洋地殻由来のハロゲンがマントルのハロゲン組成に与えた影響はより残りやすいと考えられる。
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