本研究では,表層水を保持していた唯一の地球外天体である火星に着目し,表層酸化過程に重要な役割を果たす,海・氷床の消失過程の解明を目指す。異なる惑星の表層進化過程を明らかにすることにより,普遍的な汎惑星表層進化を理解することが,本課題を含めた私の研究活動における最終目標であり,かつ研究意義となる。 本研究では、下記に示す3つの研究実施計画に従い、表層に存在していた水の「消失時期」および「消失量」を決定し,火星の各地質時代における水の存在量とその状態(氷・水)を明らかにすることを目的とする。(研究計画-1)年代の特定されている隕石から得られた表層水の水素同位体比を決定する。(研究計画-2)水素同位体比を入力パラメターとする水散逸モデルを用い,各時代間で消失した表層水・氷の総量を推定する。(研究計画-3)最後に、各時代における水の総量(固体水+液体水)と,地形情報から推定されている海水量(液体水)との差分から,固体水と液体水の量比を推定し,惑星表面温度や大気組成といった表層環境を決定付けるパラメターに制約を与える。 H28年度は、上記の研究実施計画に従い、(1)40億年前に形成されたことが判明している火星隕石(ALH 84001)に含まれる炭酸塩に着目し、その炭酸塩に含まれる水素の同位体比をカーネギー研究所の二次イオン質量分析計(Cameca NanoSIMS 50L)を用いて決定した。(2)得られた水素同位体比から、過去40億年間での表層水の散逸量を求めた。(3)その散逸量が、地形学から推察される古海洋の体積と比較し明瞭に少ないことを示した。このことは、古海洋として存在していた水の大部分が宇宙空間へと散逸せず、現在でも地下に凍土層・含水鉱物層のような状態で存在していることを示唆している。
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