研究課題
本研究では、超シャロウバンドを有する鉄系超伝導体FeSeに焦点をあて、ドイツ・ドレスデン強磁場研究所(Hochfeld-Magnetlabor Dresden, HLD)における極低温・高磁場中での熱輸送測定を中心として、この系の量子凝縮状態の特異性の解明を行う。これにより、代表者が取り組む基盤研究(B)「超シャロウバンド物質における新奇電子状態と量子凝縮相」の進展に大きな拍車をかけることを目的としている。FeSeにおける超伝導では、二次元鉄平面に平行に磁場を印加した際、極低温において上部臨界磁場が異常な増加を示すことが見出されている。対破壊効果はパウリ対破壊効果が支配的であると考えられ、また、本物質は非常に小さな有効フェルミエネルギーと大きな超伝導ギャップに起因した大きなMakiパラメータを有することから、極低温・高磁場においてFulde-Ferrel-Larkin-Ovchinnikov (FFLO)状態などの新奇量子凝縮状態が実現している可能性が期待される。当該年度では、上期においては国内での実験を進めた。FeSeにおける電子ネマティシティと異方的な電子対形成相互作用の関係を明らかにするため、Seを等原子価のSで置換したFeSe1-xSx系に着目し、熱伝導率、及び比熱を中心とした実験を継続的に行った。その結果、この系の電子対形成において、ネマティック揺らぎの軌道依存性が大きな役割を果たしているという重要な知見を見出すに至った [Y. Sato et al., PNAS (2018)]。また、平成29年10月からはHLDに渡航し、FeSeの熱伝導率測定に取り組んだ。今後の渡航を通じて、超伝導相全体にわたる熱伝導度および比熱測定を高磁場下で行ない、両者の関係を明らかにしていく。
2: おおむね順調に進展している
当該年度10月より半年間の予定でHLDに渡航をしたが、残念ながら極低温実験に必須である液体ヘリウムの再凝縮装置の故障が発生し、同研究所の実験全体が一時中断をせざるを得なくなった。この為、同12月中旬より一時帰国となった。また、HLDと同じくEMFLに属するオランダ・ナイメーゲン強磁場研究所での共同研究によって、35Tまでの強磁場実験を行うために3月に再渡航を行ったが、同施設で冷却水トラブルが発生し、予定した強磁場実験は延期となった。この為、渡航中の研究においては遅れが生じたことは否めない。しかしその一方で、国内での研究を進め、FeSe1-xSx系の超伝導状態において熱伝導率及び比熱の系統的測定から、ネマティック量子臨界点挟んだ超伝導ギャップ構造の急激な変化を明らかにすることができた。これらのことを総合すると、研究はおおむね順調に進んでいると考える。
現段階ではHLDでの実験は16Tまでの超伝導磁石を用いた実験に留まっている。今後、ナイメーゲン強磁場研究所での装置の再開とマシンタイムの割り当てを待ち、再渡航を予定している。
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Proceedings of the National Academy of Sciences
巻: 115 ページ: 1227~1231
https://doi.org/10.1073/pnas.1717331115
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