H28年度は,高圧力の水素雰囲気中において格子中に水素が占有し,その水素量が増加することでhcp-fccのマルテンサイト変態が誘起されるコバルトの研究を進めた.この構造変化をEXAFSと呼ばれるX線吸収分光法で解析するために,フランス・グルノーブルにある欧州放射光施設(ESRF)にH28年度9月から約半年間に滞在し,ESRFの高圧X線分光の研究グループとの共同研究を行った.H28年度11月にESRFのビームラインID24で実施した共同利用実験では,約3GPaからコバルトの水素化が観測され,水素誘起によるシャープなhcp-fccへのマルテンサイト変態とその進行過程をEXAFSで精密に測定できた.この結果について,現地の共同研究者との議論を進めた.また,同グループの実験にも共同研究として参加し,ナノ多結晶ダイヤモンドアンビルを用いた高圧下でのX線吸収実験の技術を習得した. H29年度はこの共同研究の推進のため,C15型ラーベス相化合物のGPaオーダーの高圧水素雰囲気下で見られる,水素化に伴う磁気転移の研究に着手した.ESRFでの実験の結果,高圧下の水素化によりXMCDの強度が急減し,さらに加圧すると再びXMCDの強度が増加する特異な圧力変化が得られた.この結果から,水素化によってGdCo2のフェリ磁性が弱まったあと,あらたな強的な磁気秩序が生じていると推測される. さらにH29年度は,2017年8月に中国北京で開かられた高圧に関する国際会議(AIRAPT26)をはじめ,姫路で開催されたXAFS討論会(2017年8月),高圧討論会(2017年10月)に参加し,H28年度にESRFで実施したCo水素化物の水素化過程を口頭・ポスター発表した.AIRAPT26ではその成果を,proceedingsとしてJ. Phys:Conference seriesに投稿した.ESRFでのS. Pascarelliの研究グループとは,今後の展開を議論している.
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