研究課題/領域番号 |
15KK0170
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
橋本 善孝 高知大学, 教育研究部自然科学系理学部門, 教授 (40346698)
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研究期間 (年度) |
2015 – 2017
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キーワード | 沈み込みプレート境界地震発生帯 / 堆積物物性 / 応力 |
研究実績の概要 |
沈み込みプレート境界の地震サイクルに伴う応力変化を理解することは、地震の規模や現在の切迫度を評価する上で重要な要素の一つである。沈み込み帯に発達する楔形の地質体(ウェッジ)の底部および内部の応力の変化を時空間的に捉えることが地震サイクルの物理挙動を理解するための大きな挑戦である。本研究は、沈み込みプレート境界およびウェッジ内部における応力の方位・大きさの地震サイクルに伴う変化を半定量的に明らかにすることを目的としている。特に、本国際共同研究加速基金の研究目的は、現在採択中の科研費の手法を国際海洋掘削コアに適用することで、“浅部”および“現在”の応力状態を制約し、“深部”の“過去”のアナログ物質からの情報と合わせ、沈み込み帯の応力状態の時空間的な変化を明らかにすることである。 本申請での研究計画はこの未固結堆積物の物性測定を国際共同研究で行うことである。特に未固結堆積物の破壊強度(内部摩擦角と粘着力)と圧密特性を得ようとする。この物性はの応力解析の中に含まれるストレスポリゴンを用いた応力サイズの制約のために必要な物性である。本申請で共同研究を進めようとする研究グループは、破壊に至る直前で実験を止め、同じ試料で異なる差応力条件の破壊実験を繰り返し行う技術を有している。 2016年度は、上記研究グループの所属するドイツGEOMARにほぼ一年間滞在し、物性獲得のための室内実験を行った。実験では多くのトラブルに見舞われ、失敗する実験が多々あったが、議論に耐えるデータを獲得することができた。また、実験の妥当性、獲得した物性の解釈、応力との関係について時間をかけて議論した。さらに、彼らの持つ微細構造との関係にも議論が発展していった。 今後は論文にまとめることを念頭により具体的な議論を継続していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り2016年度一杯、共同研究者の所属する研究所であるドイツGEOMARに滞在した。まずは実験の計画を具体化するために共同研究者と議論した。その結果、一つのサンプルについて、破壊の直前で変形を止めて、次の圧密状態へ移行し、また変形を繰り返すことを3回行うことにした(3ステップ実験)。室内実験は共同研究者が提携しているキール大学の工学系研究室の実験機および技術者支援を利用することで行った。当初はサンプルジャケットの破れ、電子バルブの故障、変位計の誤動作など様々なトラブルに見舞われ、なかなか実験は成功しなかった。一つのサンプルに3週間かかる上に、一旦トラブルに遭うと修理に一ヶ月かかることがあるなど、耐える時間が長いことがあった。実験のできない時間には、実験トラブルの原因と解決策の議論、物性と微細構造との関係の検討、土質力学の勉強などを行っていた。トラブルのおかげで実験機にも慣れて、データの精度に自信がついた。 年度後半に安定して実験を成功させることが可能となった。一方で3ステップ実験に疑問が湧いた。3ステップ実験では1ステップ目の変形ですでに物性が改変されている可能性があるのではないか?議論の結果、同深度のサンプルを別に整形し、そのサンプルについて1ステップ実験も行い、3ステップ実験との結果と比較することで、1ステップ目の物性改変の影響を検討した。その結果は単純ではなく、両者とも整合的なものと、異なるものがあった。試料の不均質性の影響もあるため、組織観察データと合わせる必要性が議論された。一方で、得られた異なる物性を範囲で示すことで制約は与えられるとの結論に達した。 以上のように、実験も得られた結果もストレートフォワードに進んだとは言えないが、当初の目的を達するための見通しは立ったと言える。また多くの議論の時間によって、共同研究者および協力者との信頼関係を構築できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針は大きく分けて二つある。一つは応力サイズの制約へ向けた検討であり、もう一つは応力解析のためのデータの追加である。 応力サイズの制約のためには今回得られた堆積物物性と古応力の方位および応力比が必要である。古応力の方位および応力比はすでに南海トラフ地震発生帯掘削計画で得られた小断層データが一部あり、このデータを扱う主要な研究者の協力を取り付けている。また、掘削孔の崩壊などを利用した現在の応力データもすでに蓄積されており、この応力方位および応力比も利用する予定である。この応力データを今回の物性から得られたストレスポリゴンと合わせて、応力サイズの制約を行っていく予定である。これはすでにルーチン化しており、実施に疑いはない。 また、応力データの追加も検討している。上記の古応力データは複数ある掘削サイトの中でも一部であり、我々が蓄積してきた物性データおよび今回の物性データの掘削サイトの中には、古応力データがない場所もある。高知コアセンターに保存されている南海掘削コアのアーカイブを用いて、古応力推定のための構造データの追加取得が必要ではないかという議論を行っている。
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