研究課題/領域番号 |
15KK0173
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
固武 慶 福岡大学, 理学部, 教授 (20435506)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2018
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キーワード | 超新星爆発 / ニュートリノ反応 / ニュートリノ輻射流体計算 / 中性子星 / 一般相対論 / 重力波 / 原子核 / スーパーコンピューティング |
研究実績の概要 |
本国際共同研究により、当初予定していた超新星爆発シミュレーションコードにおけるニュートリノ反応のアップデートを行うことが出来た。特にニュートリノ・核子散乱における多体効果、反跳の効果、ニュートリノ制動放射における多体力の効果は、ニュートリノ光度・平均エネルギーへの影響が大きいため、取り入れることが必須である。一方で、これらの反応率の計算には、運動量移行に関する角度・エネルギーに関する多重積分が発生するため、計算コストが著しく増加する。これを回避するために、ニュートリノエネルギー、密度、温度、電子分率の4変数を引数にしたテーブルを作って計算の高速化に成功した。ここでは、受け入れ先のマックスプランク研究所(MPA)の超新星研究グループの知見を最大限に活かすことが出来た。また、ダームシュタット工科大・ブロツワフ大の研究グループとも共同研究を行うことで、最新の原子核への電子捕獲率を超新星コードに取り込むことが出来るようになった。特にシェルモデル・モンテカルロ計算に基づく2000核種に及ぶ原子核に対する電子捕獲率を用いることで、バウンス後から爆発開始に至るまでの動的進化において、本質的な役割を果たす原始中性子星内のレプトン比を定量的に決めることが可能になった。まず一次元球対称の超新星シミュレーションにおいてこれら詳細な反応の効果を取り込み、それぞれの反応アップデートにつき、一ずつ先行研究と詳細な比較を行いコードのチェックを行った。次に多次元(軸対称2D)の超新星シミュレーションを実行して、その成果を査読論文として出版することが出来た。 上記に加えMPAグループとの国際共同研究の結果として、パルサーキックの起源として、爆発時の衝撃波の大局的な変形(SASI)を考慮することで、爆発する方向と逆向きに中性子星が反跳を受け、その速度が観測値と整合性が良いことを示すことが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況として、当初計画していた内容を発展させるテーマについても国際共同研究を進めている。具体的には、申請者グループとMPAグループの国際共同研究により、セルフコンシステントな2D超新星シミュレーションに基づくニュートリノ背景放射の定量的な予測を行った。ブロツワフ大の研究グループも加わり、ブラックホール生成を伴う超新星モデルについても系統的に調べることができた。結果として、今後10年のニュートリノ観測で、大質量星の重力収縮の末、中性子星もしくはブラックホールになる割合についての定量的制限が与えられる可能性・それを可能にするためにはハイパーカミオカンデをはじめとする次世代ニュートリノ検出器の稼働の重要性を、世界に先駆けて指摘することができた。 当初予定していたマイクロ物理のアップデートについては、ニュートリノ荷電反応における核子の多体効果を除いて、メジャーな部分は概ね終了している。前者については現在、反応率のテーブル化を進めている。今後はマイクロ物理パートに加え、流体パートのアップデートも不可欠である。特に、これまでの流体ソルバーHLLD法から、より数値拡散が少ないHLLC法にアップデートを行うことを済ませた。現在では、超新星爆発メカニズムにおける磁場の効果を調べるべく磁気流体コードの開発も行っている。現在5次精度のスキームのテストが概ね終了しつつある。次のステップとして、磁場がバウンス後の衝撃波の背面の乱流に及ぼす効果について調べる研究に向けて準備を進めている段階である。 ダームシュタット工科大学・バーゼル大学の研究グループとの国際共同研究で、一般相対論的超新星シミュレーションに基づく、爆発時に放射される重力波とニュートリノシグナルについても相関解析を行うことができた。今後は、このコードのマイクロ物理パートの更新を行って行くことが急務となっている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのコード開発状況から鑑みて、まず行うべきは、空間3次元(3D)の超新星シミュレーションを行い、マイクロ物理のアップデートの効果を精査することである。特に、核子とニュートリノの散乱反応における、核子の多体効果とストレンジネスの効果が爆発を助ける反応として最有力であることがこれまでの2Dのシミュレーション結果から明らかになっており、これが3Dシミュレーションで定量的にどの程度影響があるか調べることが急務である。また、親星の中心コアの構造やコンパクトネスの影響、更には星の自転、磁場の影響も系統的に調べることを計画している。 昨年度は高速自転星の重力崩壊のシミュレーションに基づき、いわゆるlow T/W不安定性の成長が引き金となって、星の水平面方向に爆発が起こることを示すことができた。一方で、この不安定性の物理的起源は未だ完全には明らかにされていない。フランスCEAの研究グループと国際共同研究を開始しており、まずは線形解析でこの不安定性の成長モードを明らかにしたうえで、非軸対称SASIと高速回転が起因するlow T/W不安定性の遷移について明らかにしていく計画である。 近年のブラックホール連星からの重力波検出を受けて、中性子星を残す超新星爆発のみならず、巨大質量星の重力崩壊とブラックホール形成に至るまでの動的進化を明らかにすることも喫緊の課題になっている。昨年度から、ダームシュタット工科大学・バーゼル大学の研究グループとの共同研究で、70太陽質量の重力崩壊並びにブラックホール形成に至るまでの進化を数値的に明らかにする研究にも着手している。ニュートリノ反応のアップデートの効果に加え、重力波観測からの制限を満たす核密度状態方程式を使用すること、さらに、これらが組み合わさったときにブラックホール形成に至るダイナミクスがどのように影響を受けるのか、今後調べていく計画である。
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