強い相互作用においてCP対称性が非常によい精度で成り立っているのは標準理論の謎の一つであり、素粒子論のより深い理解へ向けたヒントであると思われる。この問題は、ゲージ理論の真空がゲージ場がトポロジカルに絡み合って構成されているという奇妙な事実に基づく。この不思議な真空の性質はあまり理解されていない。特に、温度を上げていったときに、(つまり宇宙の初期に)どのように絡み合ったゲージ場がほどけていくのか、いまだ論争が続いている。この高温での性質は、仮想粒子アクシオンが宇宙に現在どれだけ存在し、暗黒物質になりうるかの評価に必要な情報である。本研究では、これらの問題とそれに関連する物理に関して研究を行った。米国を訪れ、アクシオン研究の専門家との議論を通じて、多くの知見を得た。 有限温度におけるアクシオンポテンシャルの研究は、世界でいち早く研究を開始し、その後、多くのグループが同様の計算を行っている。格子ゲージ理論を用いて、トポロジーの非自明な(絡み合った)配位が生成される確率を計算し、相転移温度近傍でもインスタントン描像が良く成り立つことを見た。また、インスタントンのサイズなどの性質も准古典的な描像が成り立っていることも示した。さらに、これまでの方法では不可能であった高温領域においての計算方法を開発し、有効性を確かめた。 また理論的にも、アクシオン場が空間的に非自明な配位を取る場合に、QCDに新たな双対性が現れることの指摘や、トーラス上でSU(N)/Z(N)ゲージ理論を考えることによって、ヤン=ミルズ理論のトポロジーの性質に興味深い結論が得られることを示すなどの研究を行い、学術誌に発表した。
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