研究課題/領域番号 |
15KK0184
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
林 智広 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (30401574)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2018
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キーワード | バイオインターフェース / 表面科学 |
研究実績の概要 |
当該年度は脂質2重膜作製条件の確立のため、モンゴル国立大学(モンゴル)にて実験を行った。ここでは原子間力顕微鏡を用いた表面形状の測定を行い、脂質分子の調整、を行った。その試料について、本学(東京工業大学)にて機械的特性、分子の分布などに関してナノスケールで分析を行い、学術論文を発表した。その後、ナンヤン工科大学にて同様の使用に関して蛍光顕微鏡測定を行い、膜内における分子の拡散係数、溶液条件による膜の平坦さ・均一性に関して議論した。 これらの成果をそれぞれ以下に述べる。 1. 細胞・生体組織の初期応答には吸着タンパク質層が重要な役割を果たしており、巨視的な生体適合性にも深く関わっている。しかし、タンパク質層を形成するタンパク質の構造、組成などを包括的に解析した研究はない。我々は独自の組成分析手法を用いて、血清中から人工材料表面に吸着したタンパク質の組成を定量的に分析した。さらに、血清タンパク質の吸着後の構造変化の分析と組み合わせて、接着細胞の初期応答との相関を見出した。 2. 物体間のナノメートルスケール空間に挟み込まれた水は、生体物質の付着、物体同士の摩擦などの現象に影響を与える特異的な性質を持つことが知られている。本研究では、独自に開発した光熱励振機構を組み込んだ振幅変調型原子間力顕微鏡を用い、水中で探針を振動させながら試料表面に接近させた時の振幅・位相変化を観察した。その結果に基づき、探針・試料表面の物理化学的性質を変化させた時の、水の動力学的応答の違いについて議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の計画として、「高選択性を保持した正確な細胞への情報伝達を可能とする不活性表面および疑似細胞膜プラットフォームの構築、および細胞への刺激の付与 (情報伝達)」を設定した。従来の足場材料の問題であった、リガンド分子以外からの細胞へのシグナルを徹底的に抑制した足場材料構築を行う。代表者はこれまでに、血管内皮細胞(HUVEC)を用いた実験で、固体表面上に吸着した天然状態(変性していない)接着性足場タンパク質は、インテグリンとの分子認識は起こさず、細胞接着、伸展にほとんど影響を及ぼさないことを明らかにした。ここではこの知見を用いて、タンパク質吸着が少なく、吸着しても変性も起こさない単分子膜もしくは細胞膜を模倣した人工脂質2重膜にリガンド分子を配置し、正確に細胞に必要な情報のみを伝えるプラットフォームの確立をProf. Namjoon Choと連携し行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は血管内皮細胞、HeLa細胞などのモデル細胞系で、研究を行い、その後は骨芽・破骨細胞、幹細胞、神経細胞など、より高齢医療、再生医療、神経系欠損治療に重要な細胞・組織に関して行い、目的・部位に応じた高効率な再生医療のための細胞足場プラットフォームの確立を目指す。また、実際に細胞にリガンドを通じた刺激を与え、その刺激応答の際の細胞内での分子プロセス、特に刺激に応答して発現した遺伝子解析を、Prof. Lay Poh Tanと連携して行う。 しかしながら、「材料への接触」という外部刺激から「細胞挙動」までのプロセスを包括的に議論するためには、依然として細胞内の分子プロセスがブラックボックスとして残った。その様な理由から、細胞膜近傍のみならず、細胞内の分子プロセス(特に外部刺激応答による遺伝子発現)の解析を試みる。
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