研究実績の概要 |
本年度の研究実績は以下の通りである。密度汎関数法を用いたラマンスペクトルの計算用プラットフォーム(Gaussian, Spartan)を立ち上げた。同プラットフォームを利用し、4-アミノベンゼンチオール分子(4-ABT)の単分子ラマンスペクトルの計算を行った。その結果、表面増強ラマン散乱法(SERS)にて計測した4-ABTの単分子ラマンスペクトルが、4-ABTバルクのラマンスペクトルと大幅に異なる理由が部分的に明らかとなった。まず、4-ABTバルクのラマンスペクトルは、4-ABTが単独で存在すると仮定したDFT計算結果とは合わないが、4-ABTが2つの4-ABTのファンデルワールス結晶であると仮定して計算するとスペクトルの形がかなり良く再現できる。4-ABTが高濃度の時は、4-ABTではなく二量体アゾ化合物DMABとして銀表面に存在している。4-ABTが10^-9~-10Mと極低濃度の時は、4-ABTは銀表面に対して寝ている場合と立っている場合の両方の特徴が現れていおり、測定時間内(5秒)に4-ABTが銀表面で揺らいでいる可能性を示唆している。本結果は、表面増強ラマン散乱現象のメカニズムの一つ、Charge-transferメカニズムの解明の歴史の中で20年余りも重要視されてきた4-ABT分子が、ごく簡単な分子構造であるにも関わらず実測のラマンスペクトルが密度汎関数法で再現できなかった問題をほぼ解決し、さらに銀ナノ構造体表面にてどのように振る舞っているのか、その実態に迫ったものである。現在、同成果について国際投稿論文の執筆を行っている。
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