研究課題/領域番号 |
15KK0196
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
西原 洋知 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (80400430)
|
研究期間 (年度) |
2016 – 2018
|
キーワード | 鋳型炭素 / 有機結晶 / 金属有機構造体 / カーボンアロイ / 触媒 |
研究実績の概要 |
ヘテロ原子を含有する有機結晶のような規則構造性炭素化物の合成に向け、ポルフィリン類誘導体から成る数種類の有機結晶の炭素化挙動について検討を行った。中心がNiであるポルフィリンから成る環状2量体は、比較的結晶性の高い有機結晶となる。走査型電子顕微鏡による形態観察から、この有機結晶は厚さ約50 nmの層が積層したような結晶であることがわかった。有機結晶を320℃程度まで加熱するとポルフィリンを連結しているジアセチレン部位が熱重合してポリジアセチレン構造に変化し、元とは異なる高分子結晶に転移するが、この場合にも層状の構造を保つことがわかった。さらに、700℃まで昇温して炭素化をしても、結晶の外形に大きな変化は見られず、この有機結晶は固相炭素化していることがわかった。 有機結晶の熱分解過程をより詳細に分析するため、TG-MSによる分析を行った。その結果、ポルフィリンの中心がプロトンである場合には600℃までに大量のピロールの脱離が確認された。すなわち、ポルフィリン環が熱分解していることが示唆された。ところが、ポルフィリンの中心がNiである場合にはピロールは殆ど脱離せず、ベンゼン、トルエン、ピリジル基などの脱離がごく僅かに確認されるに留まった。すなわち、Niを中心とするポルフィリンは熱に極めて強く、これが炭素化後にもポルフィリンの中心のNi-N4構造が良好に維持される理由であることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
George Shimizu教授の研究室に渡り、本格的な検討を始める前の基礎的な検討をかなり進めることができた。いままで、環状ポルフィリン2量体を炭素化すれば規則構造炭素化物が得られることは分かっていたが、その詳しいメカニズムは不明であった。H28年度には熱分解過程を詳細に分析することで、有機結晶の構造を維持した炭素化に必要な要素として、以下の4点が必要であることがわかった。(1)Niポルフィリンのような耐熱性のブロックが存在すること、(2)分子中に酸素、硫黄、ハロゲン、アルキル鎖といった熱分解し易い部位が含まれないこと、(3)ジアセチレンのように熱重合して3次元架橋ポリマーを形成できる部位を持つ、(4)有機分子が結晶構造を取り、熱重合したポリマーも結晶構造を取ること。 次年度以降、有機結晶からの規則構造性炭素化物調製の一般化を目指し、前駆体となる有機分子の幅を広げた検討を行う予定であるが、H28年度の結果からある程度、目標となる分子の絞り込みが可能となった。
|
今後の研究の推進方策 |
Ni型の環状ポルフィリン2量体で発見されていた、有機結晶から規則構造性炭素化物への転換の原理を、他の有機結晶に拡張する検討を行う。まず、Ni型ではなくFe型の環状ポルフィリン2量体の合成およびその炭素化を行う。また、2量体では無くポルフィリン単量体に関し、置換基の効果を調べることを目的により詳細な検討を行う。その中で、ピリジル基、フェニル基、アセチレン基など置換基の効果を明らかにする。 次に、規則構造性炭素化物の多孔化に関する検討を行う。従来のNi型の環状ポルフィリン2量体は、熱重合によりポリマー結晶となった際に、ポルフィリン環が比較的配列して層状の構造を作っており、そのため炭素化した際にポルフィリン同士が積層して細孔が形成されないものと考えられる。そこで、ポルフィリン同士が積層しない状態の分子結晶を形成するポルフィリンを設計し、これを炭素化することで積層を防ぎ、細孔が発達した試料を合成する。 さらに、George Shimizu教授が得意とするガス吸蔵やプロトン伝導の機能を組み込んだ規則構造性炭素化物の調製にも取り組む。
|