研究課題
ゼオライト鋳型炭素のように規則構造をもつ炭素材料の鋳型フリー合成を志向し、ホスホネート系有機金属構造体の世界的権威であるUniversity of CalgaryのGeorge Shimizu教授の研究室に滞在し、共同研究を行った。Shimizu教授の得意とするホスホネート系金属有機構造体(MOF)の中でも特に熱安定性に優れるジルコニウムを用いた構造体に着目し、その熱安定性や酸および水蒸気に対する安定性を調べた。その結果、従来の有機金属構造体に比べて大幅な優位性を見出した。特に、テトラフェニルベンゼンをベースにした有機骨格とホスホネートから成るリガンドが450℃でも安定であることから、これを利用した新規炭素材料合成の着想を得ることができた。具体的には、フェナントレン、コロネン、ポルフィリンといった巨大π系分子のみならずテトラフェニルベンゼンも耐熱性の規則性カーボン合成の分子ブロックとして有用であることを見出した。これらの耐熱性ブロックをジアセチレンもしくはアセチレンと組み合わせると、熱処理により規則性カーボン材料が得られると考えられるが、そこにホスホン基を導入すれば、炭素化後にも機能性官能基として炭素骨格に残存できる可能性が高い。また、ホスホネート系MOFのプロトン伝導測定も行い、水素結合ネットワークの次元性とバルク導電率に相関を見出した。炭素材料のエッジサイトにもリン酸基やホスホン基の導入は可能であり、耐薬品性及び耐熱性に優れる炭素系のプロトン伝導材料調製の着想を得ることができた。また、緻密に細孔径が制御できる有機金属構造体の骨格に極性を持たせることで室温での二酸化炭素吸着量および窒素に対する選択率を大幅に向上できることも見出した。さらに、合成したホスホネートMOFを規則構造性炭素に直接転換できる可能性も示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
当初は、ゼオライト鋳型炭素と同じく規則構造を持つカーボン材料を有機系結晶の炭素化により調製することを目的としていた。この目的は概ね達成でき、研究成果はNature Communications誌にて報告することができた。当初の計画に加え、George Shimizu教授の得意とするホスホネート系MOFに関する検討を進め、ホスホネート系リガンドが新規カーボン材料創製のために非常に有用であることを見出した。高い熱安定性を見出すことができ、カーボン材料へ機能性官能基として導入する着想を得た。さらに、ホスホネート系MOFを直接炭素化しても、規則構造性カーボン材料が得られることを示唆する実験結果も得られた。MOFの炭素化で規則構造が残った例はこれまで皆無であり、今後新規のカーボン材料創製に繋がる可能性が大いに期待できる。以上のように、当初の計画以上に研究は進展している。
George Shimizu教授の指導の下で合成に成功した新規のホスホネート系MOFの物性調査および炭素化挙動に関する検討を進める。得られたMOFは粒径約50 nm程度の微結晶であるため、放射光を利用した粉末X線回折により高分解能の回折パターンを得て、粉末データからの結晶構造解析を試みる予定である。また、MOF自体の物性も非常に興味深いため、ガス吸着及び熱重量分析を用いた解析を進める。さらに、MOFを炭素化した際の構造変化についても詳細な検討を進める。800℃まで加熱しても約20%程度しか重量減少が無いため、リガンドの大部分はガス化せずに炭素質に変化して多孔性炭素を形成している可能性が高い。規則性の維持できる限界温度を調べ、その温度で調製できる炭素化物のキャラクタリゼーションを進める。MOFの直接炭素化による規則性カーボン合成はこれまでに例が無いため、炭素合成の分野に大きなインパクトを与えるものと期待できる。
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https://academist-cf.com/journal/?p=5529