人工股関節全置換術後,大腿骨は剛性の高い金属製人工股関節ステムを設置したことによる力学的な環境の変化に適応して,近位部の骨吸収,遠位部での骨肥厚など様々な骨のリモデリングを生じる.中でも近位部の骨量減少はステムの弛みを引き起こすことから,長期生存のために解決が強く求められている.本研究ではヤング率の傾斜機能を持つユニークな低弾性チタン合金(Ti-33.6Nb-4Sn)を用いて開発されたステム(TNSステム)の骨量減少の低減効果に関するバイオメカニクス研究を実施し,Ti-33.6Nb-4Snの人工股関節用の材料として有用性を検討した.TNSステムは骨頭ネック部への局所的な熱処理によって近位から遠位にかけてヤング率を低下させるコントロールが可能である.昨年度はラドバウド大学の整形外科バイオメカニクス研究室に8ヶ月間滞在し,有限要素解析を組み合わせた骨再構築シミュレーションに取り組み,TNSステムの術後10年までの骨量変化を予測すると共に,力学的な適合性およびステムの構造的強度について検討し,優れた骨量温存効果と強度を明らかにしてきた.本年度は研究のさらなる発展を図り,ステムのヤング率分布が骨量変化と初期固定性に及ぼす影響について検討した.その結果,一様なヤング率の低減は大腿骨近位部の骨量を維持する一方で,近位部におけるステムー;大腿骨の境界面に生じる応力の増大することが明らかになり,ステムの弛みを引き起こす危険性があることを示した.これらの知見より,術後の骨量維持と初期固定性の間にはトレードオフの関係があり,ヤング率の傾斜化はそれらを両立できる可能性を示唆した.本国際共同研究の成果は当該分野で重要な学術誌に国際共著論文として発表できた.
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