研究課題/領域番号 |
15KK0228
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
長谷川 有貴 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (90344952)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2017
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キーワード | 栽培環境制御 / 植物生体電位 / 植物ホルモン / FETガスセンサ / 収穫後果実 / エチレンガス / 有機電気化学トランジスタ |
研究実績の概要 |
本年度は,SiCを基板としたField Effect Transistor(SiC-FET)構造センサを用いた栽培環境における雰囲気ガス管理のための高精度センシングシステムの開発に重点をおいて研究を行った。対象とするガスは,エチレンガスとした。エチレンガスは,植物自体から生成され,種子の発芽促進,茎の生長や開花の抑制,果実の成熟促進などの働きをする植物ホルモンの一つで,植物工場などの施設栽培や収穫後果実の貯蔵環境の制御のために,エチレンガス濃度を評価する必要がある。 SiC-FETセンサは,これまでにCOxやNOxなどの環境汚染物質や,VOCなどの室内空気汚染物質検知に有効であることが報告されており,ゲート部分の材料や動作温度を変更することで,その感度や選択性を制御することが可能なセンサデバイスである。本研究では,数ppm程度のエチレンガスの検知が可能な最適温度などを明らかにしつつあるとともに,果物から生成されるエチレンガスの検知にも有効である可能性を確認している。なお,養液センシングに関する研究の着手には至っていないが,pHセンサや電子舌などに関する基礎技術の調査や養液用デバイスの作製方法の習得を進めている。 また,生体計測技術に関する研究は,リンショーピン大学内の別グループとの共同研究によって,より精度の高い生体計測技術の構築に向けたOrganic Electrochemical Transistor (OECT)技術を用いた手法についての検討を進めている。 以上のようなガスセンサ及びOECT技術の研究と同時に,本研究のコア技術の一つである植物あるいは果実の生体電位計測を行っており,これらの技術を融合したシステム作りに向けた土台となる成果が得られつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は,養液,雰囲気ガス,そしてそれらの化学センシングと生体計測を融合した栽培環境制御システムの開発を目的としている。これまでに,従来から高い感度,選択性制御の容易さと耐久性を有することが知られているSiC-FETガスセンサを用い,エチレンガスの検知を試みた。エチレンガスは,植物ホルモンの一つですべての植物の生長に影響を与えるが,特に収穫後果実の成熟に関わることが知られていることから,リンゴやキウィフルーツなどの果物から生成されるエチレンガスを対象とした研究も進めている。 センサの利用目的によって必要とされる測定濃度範囲が異なるが,最初の段階として100~400℃のセンサ動作温度下で数ppm程度のエチレンガスの検出を試みた結果,動作温度を最適化することでエチレンガスが検知可能であり,濃度に依存した応答が観測されることを明らかにした。養液センシングに関する研究の着手には至っていないが,pHセンサや電子舌などに関する基礎技術の調査や溶液用デバイスの作製方法の習得を進めている。 なお,当初予定していたOulu大学での生体計測技術に関する取り組みは,予定していた共同研究者の勤務体制の変更があったことなどから,研究情報の収集に留まっている。そのため,当初の予定よりやや遅れているが,リンショーピン大学内の別グループとの共同研究をはじめ,より精度の高い生体計測技術の構築に向けて,Organic Electrochemical Transistor (OECT)技術を用いた手法についての検討を進めており,今後OECT技術を用いて生体計測システムの性能向上を目指す。また,エチレンガスなどの雰囲気ガス濃度と生体電位応答との関連についても検討を進めている。 本年度中に得られたエチレンガスセンサとしての利用可能性を示す成果は,6月に行われる国際学会での発表を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに,SiC-FETガスセンサによって,数ppm程度のエチレンガスが検知可能であることを明らかにしているが,栽培環境下にある植物,あるいは収穫後の果実から生成されるエチレン濃度を測定することを想定すると,より低濃度のエチレンを検知可能となるセンサが必要である。一方で,収穫後果実の貯蔵施設の管理には,比較的高濃度のエチレンの検知が必要である。 そのため今後は,広濃度範囲のエチレンを検知可能なセンサのゲート材料,動作温度,感応部の熱処理温度などについて検討を進める。また,栽培環境における雰囲気ガスにはさまざまなものがあるため,ガスクロマトグラフィを用いたガス種の特定と,それらのガスやエチレン以外の植物ホルモンに対する選択性についても検討する。これらの研究を進めるに当たっては,現在研究活動を行っているリンショーピン大学の他,特に低濃度ガス計測技術に精通しているドイツのザールランド大学(Saarland University)の協力を得ながら勧める予定である。 養液センサについては,従来から一般的に用いられているpH センサの原理を応用し,研究に着手していく予定であるが,滞在期間が限られるため,滞在期間中のデバイス作成技術の習得,並びに研究基盤の確立を目指す。 生体計測に関しては,新たに導入するOECT技術と従来の生体電位技術,さらに,生体電位のインピーダンス測定に着手し,これらの情報を光合成反応や果実の熟度などの生体情報と関連づけて評価する手法を確立する。最終的に,これらの生体計測技術と科学センシング技術を融合し,植物工場などの施設栽培環境管理および制御システムを確立する。
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