腎臓を患者へ移植した直後では、血管内皮表面に存在するGlycocalixと呼ばれる成分が損傷あるいは喪失するために凝固反応や自然免疫が活性化されるため、血管内皮細胞が傷害を受けることが知られている。これら一連の自然免疫系の活性化反応は、虚血再灌流傷害の原因の一つとして位置付けられており、移植した臓器の生着率が著しく悪くなることがわかっている。本プロジェクトでは、腎臓内の血管内皮細胞の表面を、PEG脂質や凝固系あるいは補体系の制御に関わる生理活性物質でコーティングすることで、虚血再灌流傷害の制御を行うことを目指したものである。このことにより、腎移植後の生着率が向上し、移植成績が大きく改善することが期待できるためである。ここではスウェーデンウプサラ大学との国際共同研究を通して、大動物であるブタの腎移植モデルを用いて、in vivoならびにin vitro評価を行った。これまでに、放射ラベル化したPEG脂質を用いてPETによる腎臓内の分布を調べたところ、一様にコーティングできていることが分かった。今年度では、昨年度に引き続き、PEG脂質で処理した腎臓を移植したレシピエントの血液分析を行った。処理した腎臓を移植したグループでは、分析した多くのサイトカイン類において、コントロール群と比較して、低い値氏を示しており、表面修飾の効果が見られていた。さらに、移植後の腎臓から生検を行って、補体の沈着を調べたところ、コントロール群では、多くの補体成分の沈着が見られていた。
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