Kassab教授との共同研究により境界要素法による腐食電場解析コードが完成した.これを更に応力解析と連成させるため,分極曲線の応力依存性を明らかにする必要がある.また前年度までの実験から,応力負荷により損傷した酸化皮膜は水中で即座に再不働態化し,数十分で元の状態に戻ることがわかった.通常,分極曲線の測定には1時間程度を要するため,一定応力の場合,測定途中で酸化皮膜が再生し,正確な電気化学特性を評価できない.一方,ある程度速い引張速度で引張試験を実施すれば,皮膜損傷による即座の電気化学特性変化を測定できる. そこで本年度は定電位の引張試験を実施し,皮膜損傷による電流密度の変化を測定した.材料にはSUS316オーステナイト系ステンレス鋼を用い,腐食環境は1%NaCl水溶液とした.限られた試験回数で分極曲線を効率的に評価できるように,-500~200 mV vs. Ag|AgClの範囲の6点で定電位引張試験を実施した.皮膜の損傷により電流密度がアノード側に変化することが明らかとなった.この実験結果から同じ応力に対する電位と電流密度6点を抽出し,その回帰曲線を求めることで,その応力に対する分極曲線を評価した.8本(0~700 MPa)のカソード分極曲線と5本(500~700 MPa)のアノード分極曲線を取得することに成功した. また前年度の共同研究で考案した皮膜損傷部の電気化学特性同定法を応用し,通常測定した分極曲線と開回路引張試験の結果を基に,応力依存型分極曲線を腐食電場解析により推定した.この結果からも上記の実験と同様だが更に精密な分極曲線を取得することに成功した.この分極曲線を用いて,弾性応力場と腐食電場を境界要素法で連成させるコードを開発した.これを緩い切欠きを有する均質材平板の問題に適用し,応力集中部から局所的に深化する腐食ピット生成過程を再現できることを示した.
|