平成29年度は,酵素への結合部位や荷電基密度をはじめとした諸性質が精密に制御された担体と複合化させた炭酸脱水酵素の調製と特性評価及び応用に関する研究を実施した。まず,炭酸脱水酵素の特性を考慮した複合体の最適調製条件の検討を行った。調製過程における最大の問題点は,複雑な表面電荷分布をもつ酵素分子同士が凝集体を形成することであったが,これがほぼ完全に抑制される調製条件を明らかにした。これにより,安定的な酵素-担体複合体の調製と長期保存が可能となり,複合体を利用した様々な実験が可能となった。また,担体に固定化された酵素分子数,そのうち活性をもつ酵素のみかけの割合等の諸特性を明らかにした。なお,得られた複合体のサイズを考慮すると,リポソームとの複合化においては当初予定していたリポソームの内水相ではなく外表面を利用することにより,より効果的で幅広い酵素の機能制御が可能となると判断された。このため,29年度は,リポソーム系への展開を考慮して,固体表面上における複合体の触媒活性の安定性やモデル基質を用いた際の反応特性を詳細に検討した。ここでは,荷電した固体表面へ酵素-担体複合体を吸着法により固定化させた。遊離炭酸脱水酵素を用いて同様の条件下で固定化処理を行った場合と比べて,複合体を固定化させた系で得られる触媒活性が著しく異なることを明らかにした。また,実用性を考慮して,反応系の設計・開発や触媒活性に及ぼす反応操作条件の効果を幅広く検討することにより,固定化炭酸脱水酵素としての有用性を示した。
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