研究課題
当該年度には心拍などの生体情報を電波により遠隔で高精度に計測するために体動の影響を抑圧する技術を開発した。電波による心拍の遠隔測定では、数十ミクロン程度の微小な体表面の変位を高精度に測定する必要がある。しかし、人体の動きは不規則に反射波の位相を変動させるため、こうした心拍に起因する微小な信号位相への干渉となり、心拍の遠隔測定を困難にしている。我々は複数の受信素子を用いたマルチチャネルレーダを整備し、適応的アレイ信号処理を適用することにより体動の影響を抑圧する手法を開発した。開発技術は人体の位置や姿勢の不規則な変化に応じて適応的にビーム形状を変化させて対象人体を追跡する。その結果、不要干渉波を抑圧することで生体情報の推定精度を向上させることができる。さらに、代表者が開発してきたトポロジー相関法を適用することで、心拍間隔を高精度に推定可能であることを示した。開発技術の性能評価のために、電波暗室内での測定を実施した。被験者は健康な成人であり、自然に呼吸をしつつ直立した状態で測定を行った。被験者にはレーダ測定と同時に心電計を装着することで、レーダによる遠隔の生体情報計測の精度を評価した。その結果、被験者の心拍間隔を平均二乗誤差20.9msと高精度で計測できることが示された。心拍間隔の測定により瞬時心拍数を求めることが可能となり、瞬時心拍数の時間変動からは糖尿病や高血圧、心疾患など多くの疾患の前兆や対象者のストレス状態などの異常が検出できることが知られ、多くの応用可能性を有する。そのため、対象者の異常検出を実現するための重要な要素技術が開発されたといえる。
3: やや遅れている
平成28年度中には渡航先への渡航ができなかった。これは国内用務の調整に予想よりも時間を要したためである。このため、渡航を予定していたハワイ大学マノア校の共同研究者らと電子メールや電話会議などにより打ち合わせを行い、国内で実施可能な範囲で共同研究を進めてきた。しかし、実際の渡航が年度内にできなかったことにより、研究計画と比べて進捗状況はやや遅れている。
平成29年度4月より渡航先研究機関である米国・ハワイ大学マノア校へ渡航し、研究計画に従って共同研究を実施する。代表者の開発してきた技術と渡航先研究機関のグループの技術を融合させ、さらに研究計画に記載のとおり京都大学およびオランダ王国・デルフト工科大学の研究グループとの密接な連携により国際共同研究を実施する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 7件、 招待講演 1件)
IEEE Transactions on Aerospace and Electronic Systems
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1109/TAES.2017.2649798
IEEE Access
巻: 5 ページ: 3240-3249
10.1109/ACCESS.2016.2614824