研究課題
イカなどの軟体動物は,ヘモシアニンという分子量約4MDa の巨大蛋白質会合体を用いて酸素を運搬している.興味深い事に,ヘモシアニンはその大きさを生かしてハプテンのキャリアー蛋白質や免疫賦活剤として医工学的に応用されている.研究代表者は,スルメイカ由来ヘモシアニンの会合体の結晶構造を3.0オングストロームの分解能で決定し,ヘモシアニンが外壁領域と5つの内部領域から構成されていることを明らかにした.外壁領域では非常に明瞭な電子密度が観測されたが,内部領域の立体構造を正確に決定する事は困難であった.本課題では,近年,著しい発展を遂げ,X線結晶構造解析に劣らない解像度で構造解析が可能となったクライオ電子顕微鏡による単粒子解析の技術を用い,X線結晶構造解析では達成できなかったスルメイカ由来ヘモシアニンの内部領域の構造を決定し,ヘモシアニンの内部空間のデザイン学への足がかりとする.研究代表者は,2016年7月から2017年3月まで,ドイツのマックスプランク研究所に滞在し,スルメイカヘモシアニンのクライオ電子顕微鏡解析を行った.はじめに,試料の調製方法を検討し,超遠心分離を用いた会合体の調製方を構築した.得られた試料を用いてクライオグリッドの作製条件を検討し,良質なグリッド作製の条件を決定した.最新のクライオ電子顕微鏡(FEI社製TITAN KRIOS)を用いて,約5000枚のイメージを取得し,プログラムSPHIREを用いてその構造を決定した.得られた構造は,X線結晶構造解析により得られたものとは異なる,対称性のない内部構造をしており,結晶中ではこれが10個の異なるオリエンテーションで積層したために,D5対称性の電子密度が見られたということがわかった.
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り,8ヶ月間,派遣先研究室に滞在してクライオ電子顕微鏡を用いた解析を行い,その構造決定に成功した.予定通りにすべてが行われているため,概ね順調に進行していると結論した.
今後は,得られた構造の精密化を行い,詳細な構造を精査する.得られる結果に基づき,ヘモシアニンのフォールディングについて解析し,論文発表する.
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 産業財産権 (1件)
Proc. Natl. Acad. Sci. USA
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
J. Food Biochem
巻: 41 ページ: e12301
10.1111/jfbc.12301