研究課題
青色光受容体フォトトロピンは、光屈性、葉緑体運動や気孔開口など光合成を促進する生理反応を制御している。申請者はフォトトロピン結合タンパク質であるNPH3(nonphototropic hypocotyl 3)様タンパク質NPH3 とNCH1(NRL protein for chloroplast movement 1)が細胞膜上で粒状構造を取ることを発見した。本研究は、この粒状構造がマイクロドメインに相当する性質や機能を持つかどうか検証し、これらタンパク質の複合体解析によりフォトトロピンシグナリングを解明することを目的とする。NPH3 とNCH1の局在解析と複合体プロテオーム解析の二つの項目に重点を置き研究を進めている。NPH3様タンパク質の粒状の局在がマイクロドメイン様構造に相当するか検証するため、動植物においてマイクロドメインに局在することが知られるフロチリンとRFP(red fluorescent protein)との融合タンパク質を発現するためのベクターを構築し、NPH3様タンパク質とGFP(green fluorescent protein)の融合タンパク質を発現するシロイヌナズナ形質転換体に導入したので、形質転換体が得られ次第共局在を観察する予定である。またNCH1 がNPH3 と同様に青色光によりフォトトロピン依存で脱リン酸化されることを明らかにしたので、NCH1 のリン酸化状態がその局在と機能に関わる影響を調べる。プロテオーム解析は特に葉緑体運動を制御するNCH1あるいはRPT2とGFPの融合タンパク質を発現するシロイヌナズナ形質転換体を用いて、GFP抗体による免疫沈降により単離した複合体をマス解析し、フォトトロピンシグナリングに関わる新規因子を同定する。
1: 当初の計画以上に進展している
NPH3は暗黒下でリン酸化され青色光によりフォトトロピン依存で脱リン酸化される。また細胞膜上のNPH3 は青色光照射によりフォトトロピン依存で粒状構造を取るが、NPH3のリン酸化状態がこの局在変化や機能と相関関係があることが知られている(Haga et al. Plant Cell 2015)。NCH1もNPH3同様暗黒下でリン酸化され青色光によりフォトトロピン依存で脱リン酸化されることが明らかとなった。NCH1 のゼニゴケNCH1でも同様の現象が見られており、リン酸化サイトであるセリン残基をマス解析により同定したので、現在セリン残基をアラニン(非リン酸化状態)あるいはアスパラギン酸(擬似リン酸化状態)に置換したゼニゴケNCH1 を発現する株の葉緑体運動を解析中である。また、シロイヌナズナにおいてもマス解析によりNCH1のリン酸化サイトを同定する。
これまで局在解析にはNPH3-GFP やNCH1-GFP などNPH3様タンパク質のカルボキシ末端側にGFP が融合されたタンパク質を発現するラインを用いていたが、NPH3-GFP とNCH1-GFPのどちらもが青色光によりほとんど脱リン酸化されないことが明らかとなった。実際にNPH3-GFP とNCH1-GFP両方とも光照射状況に関係なく粒状構造を取る。そのため、今後の局在解析とマス解析のために、NPH3様タンパク質のアミノ末端側にGFP が融合されたタンパク質を発現するラインを新たに作成中である。NPH3様タンパク質のカルボキシ末端側にGFP が融合されたタンパク質を発現するラインも、NPH3様タンパク質のリン酸化状態の局在と機能における寄与を検証する上で有用なツールとなる。共同研究者のJohn Christie教授は特に光屈性に関わるNPH3 の解析を担当するので、申請者は葉緑体運動に関わるNCH1とRPT2に重点を起き今後の解析を行うことにした。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Sci Rep.
巻: 6 ページ: 39232
10.1038/srep39232.
Plant Cell Environ.
巻: in press ページ: in press
10.1111/pce.12867.