研究課題/領域番号 |
15KK0260
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
松尾 光一 広島大学, 放射光科学研究センター, 准教授 (40403620)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2017
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キーワード | 放射光円二色性 / 真空紫外領域 / アミロイド線維 / CD理論 / 分子動力学法 / アミノ酸側鎖構造 / 高次構造 / 蛋白質‐蛋白質相互作用 |
研究実績の概要 |
放射光を用いた真空紫外円二色性(VUVCD)分光法は、水溶液中の蛋白質の2次構造含量・本数・配列の解析が可能である。また、最近では蛋白質の立体構造モデルとCD理論によるスペクトル解析から,蛋白質の活性部位付近の局所構造などの情報が得られるようになった。本研究では,VUV領域までのCDスペクトルが計算できるCD理論を高度化すると共に、この手法をアミロイド線維のような相互作用系の蛋白質構造解析法に応用した。 ①蛋白質のCD理論の高度化 米国コロラド州立大学のRobert W. Woody教授を中心とした研究チームと共に、VUV領域にCDを持つアミド間電子遷移(CT)の相互作用を考慮できるCD理論構築についての研究を進めた。CT遷移を考慮した理論の構築は進行中である。一方、芳香環を持つアミノ酸残基のトリプトファン・チロシン・フェニルアラニン側鎖を考慮できるこれまでのCD理論に、ヒスチジン側鎖の寄与も考慮できる新たなCD理論を構築した。 ②β2-microglobulin(β2m)フラグメントアミロイド線維のVUVCD実験と理論 CD理論計算の対象となる、β2mコアフラグメントであるβ2m21-31から、アミロイド線維を酸性とアルカリ条件下で作成し、VUVCD測定を行った。その結果、このフラグメントは、pHに依存した線維の構造を形成することがわかった。β2m21-31のアミロイド線維のモデル構造をAMBERや固体NMR構造(β2m20-41)から形成し、GROMACSで分子動力学計算を行った。得られたシュミュレート構造とヒスチジン側鎖を考慮したCD理論を用いて、VUVCDスペクトルを計算した結果、フラグメント間にジスルフィド結合があること、またシステイン基のCβやSを含めた二面角の違いがコンフォメーションに影響し、CDに大きく寄与することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①これまでのCD理論は、主鎖構造(二次構造)と芳香族アミノ酸側鎖構造(三次構造)を考慮できる手法であったが、今回新たにヒスチジン側鎖を考慮できる手法を構築することができたため。今回のターゲット蛋白質にはヒスチジンが含まれるため重要な進展であると考える。 ②CD理論を用いた構造解析では、実測スペクトルが欠かせないが、β2m21-31フラグメントのアミロイド線維でpHに依存した明確なスペクトル差異を観測することができたため。また、このアミロイド線維の複数のモデル構造を構築し、分子動力学とCD理論から、実測スペクトルに寄与する重要なファクターを特定することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
①分子動力学法とCD理論を用いて、β2m21-31のアミロイド線維の高次構造解析を行うことで、pHに依存したコンフォメーションの違いやアミロイド線維の形成機構の違いについて明確にする。さらに、β2m21-29フラグメントアミロイド線維のpHに依存した構造解析も実施することで、アミノ酸配列に依存したコンフォメーションの違いやアミロイド線維の形成機構の違いについて議論を進める。 ②CT遷移を考慮した理論の構築を進め、参照蛋白質を用いたスペクトル計算精度の評価を行い、β2m21-31やβ2m21-29フラグメントの構造解析に応用し、水溶液中でのアミロイド線維のコンフォメーション(シート構造や側鎖構造の配向など)を詳細に解析する。これらの研究により、VUVCD分光法を用いた蛋白質-蛋白質相互作用系の構造解析法の確立を目指す。
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