雌雄異株植物ヒロハノマンテマは、570 Mbと巨大なY染色体をもつ。Y染色体には、めしべの発達を抑制するGSFと、おしべの発達を促進するSPFとの、2つの性決定遺伝子の存在が推定されている。1対の常染色体からXY染色体が出現したのはわずか1100万年前であり、これはほ乳類の性染色体の出現が1億6千万年前であるのと比較して新しい。そのため、1000を超える相同遺伝子対がXY間で保存されている。2つの性決定遺伝子が同定できれば、相同性比較や構造比較により性染色体の構築過程を知ることができる。 本研究では、オス個体、メス個体、および両性花変異体2個体からゲノムDNAを抽出し、高速シーケンスを行なった。さらに、オス、メス、両性花変異体2個体について、直径0.5mm以下の極小さな蕾をサンプリングしてRNAseq解析を行なった。両者のデータを統合することで、「オスに存在し発現するが、メスおよび両性花変異体2個体では存在せず発現しない」遺伝子を絞り込んだ。 一方、我々が保有するY染色体を大きく欠失する変異体群についてRNASeqを行ったところ、X染色体上に存在する遺伝子群の発現量の上昇がみられた。X染色体はオスに1本、メスに2本存在するため、X染色体上の遺伝子はメスの方が多い。哺乳類や昆虫には、この違いを遺伝子発現レベルで調整する遺伝子量補正機構が備わっている。ヒロハノマンテマではY染色体上の遺伝子も機能している場合が多いが、本研究の結果は、Y染色体上の遺伝子を失うとそれを補う様にX染色体上の遺伝子の発現が上昇したことを意味する。我々はこれを即時遺伝子量補正と命名し、わずか11100万年の間に、植物性染色体が遺伝子量補正メカニズムを獲得したことを明らかにした。
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