研究実績の概要 |
新たな微生物制御手法として,より効果的な利用を可能にするためにはD-Trpの作用機序を明らかにすることが重要である。本研究ではD-Trpによって細菌の増殖が抑制されるメカニズムを解明することを目的として,D-Trpが細菌体内部に取り込まれて作用する可能性と,細菌体外部で作用する可能性の2つの仮説を検証した。 (1) 菌体内部での検証 培養時の食塩濃度に関わらずE. coli内部からTrpが検出され, 条件②NaCl 0%-D-Trp40 mM,④NaCl 1%-D-Trp40 mM(増殖可能条件)において多量のTrpが検出された。増殖可能条件においてもE. coliはD-Trpを取り込むことが示され,D-TrpそのものにE. coliの増殖を阻害する働きはないものと考えられる。代謝物は食塩の影響を強く受け,増殖可能条件⑤NaCl 3%- D-Trp 0 mM, および増殖抑制条件⑥NaCl 3%- D-Trp 40 mMで培養したE. coli細胞内の代謝物の検出量はほとんど同様であった。検出量の異なるいくつかの物質にグアノシン4リン酸 (ppGpp) があり,この物質の合成が増殖抑制の一因であると考えられる。これらの結果から菌体内部で作用して代謝阻害を誘導している可能性は低いことが示唆された。 (2) 菌体外部での検証 増殖不能な条件⑥で培養したE. coliを増殖可能な条件③~⑤の培地に移植すると,すべての条件で増殖し, 増殖抑制条件⑥の培地に移した場合は増殖が抑制された。すなわち,D-Trp環境下で増殖抑制されていたE. coliの外部環境からD-Trpを取り除くと再増殖することが明らかとなったため,D-Trpは菌体外部で作用しE. coliの増殖に何らかの影響を及ぼしていることが示された。
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