研究課題
今年度は受け入れ研究機関の一つである、米国アラスカ大学フェアバンクス校のRussell R. Hopcroft教授が主宰する、砕氷船「Sikuliaq」号を用いた研究調査航海「ASGARD-2017」に乗船し、北極海(チャクチ海)における動物プランクトン採集と飼育実験を行った。期間は2017年6月9日~29日で米国アラスカ州ノーム出入港であった。航海中はHipcroft教授との共同研究の一環として、彼の研究チームが行う、動物プランクトンを対象とした飼育実験作業を行った。また同時に行った動物プランクトン採集では、目合い150 μmの動物プランクトン試料の分割試料(1/2)の譲与を受けた。その後、同様の海域を対象とする日本の2航海:北海道大学附属練習船おしょろ丸(7月3日~8月1日:ダッチハーバー~函館)、海洋研究開発機構海洋地球研究船みらい(8月19日~10月2日:ダッチハーバー~八戸)にて、同様の目合いでの動物プランクトン採集を行い、時系列での経時的な動物プランクトン試料を確保した。研究打ち合わせと試料解析のために、8月22~29日にかけて、アラスカ大フェアバンクス校のHopcroft教授の研究室を訪問した。また、米国滞在のJ-1ビザ申請のために9月24~25日にかけて米国大使館を訪問した。受け入れ研究者の米国ウッズホール海洋学研究所のCarin J. Ashjian主幹研究員と相談し、2018年3月19日~2019年3月16日にかけて滞在研究をすることとし、上記予定に沿って移動し滞在研究を開始した。滞在中は北極海の氷上ステーションで1年を通して採集された動物プランクトン試料(SHEBAサンプル)の解析を行う予定で、既に数試料の解析を済ませている。今年度はまた、関連する研究成果について論文発表や学会発表の成果発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
今年度の重要な成果として、受け入れ研究者であるアラスカ大学フェアバンクス校のRussell R. Hopcroft教授の主宰する研究調査航海に乗船し、共同研究の一環として彼の動物プランクトン飼育実験の一端を担い、また動物プランクトン試料の譲与を得られたことが挙げられる。従来、日本とアメリカではそれぞれ動物プランクトン採集に用いていた網の目合いが異なっていたが、同じ基準で比較を行うために、研究対象海域である北極海での試料数が多いことから、アメリカが標準として用いている目合い150 μmを採用し、日本の2隻の船(北大のおしょろ丸と海洋研究開発機構のみらい)でも、この目合いでの動物プランクトン採集を行った。これらを可能にするために、従来2連で行っていたプランクトン採集(Twin NORPAC net)ではなく、4連のプランクトン採集枠を開発し(Quad NORPAC net)、この採集効率に関する研究にも着手した。滞在先の主な研究機関である米国ウッズホール海洋学研究所のCarin J. Ashjian主幹研究員とは、滞在中に解析する試料についての詳細なメール打ち合わせを行い、2018年3月19日に訪問滞在を開始した時も、準備が十分であったために、実にスムーズに試料解析を進めることが出来た。成果発表としては、対象海域である北極海を中心とした関連海域の動物プランクトンに基づく研究成果論文を査読つき国際誌に6編、査読無し英文誌に1編発表することが出来た。また関連する国内外での口頭およびポスター発表も積極的に行い、Hopcroft教授が共著者に含まれる、指導する大学院生による学会口頭発表が、優秀発表賞を受賞した(第5回青田昌秋賞、2018年2月)。これらのことは、本研究課題の進捗状況がおおむね順調であることを示している。
今後の研究の推進方針としてまず、滞在研究先:米国ウッズホール海洋学研究所での試料解析を速やかに遂行することが挙げられる。これは、北極海の氷上ステーションで1年間を通して表層から深海に及ぶ動物プランクトンの鉛直区分採集試料という、これまでどの研究機関も得ることが困難であった試料であり、その成果発表は今後の北極海における海洋低次生態系の変化を予測する上で、非常に重要な意味を持つからである。また、昨年度に日米で使用するネットの目合いを統一して(150 μm)採集した、チャクチ海にて採集された動物プランクトン時系列採集試料の解析も重要である。これは、アメリカの「Sikuliaq」-日本の「おしょろ丸」-「みらい」と、3船がそれぞれ異なる時期に同じ海域で採集した試料を一堂に会して、動物プランクトン群集、とくにその中に優占するカイアシ類とヤムシ類を対象として、その春季から秋季にかけての成長を明らかにすることを目的としている。北極海では、日照のある時期が季節的に春~秋季に限られるため、動植物の成長も大半はその季節に限られている。そのため、春~秋季をカバーした本研究で採集された動物プランクトン時系列採集試料は、これまでどの研究機関も得ることが困難であった試料であり、この解析と発表も本研究の重要な推進方策である。成果発表として本研究の各受け入れ研究者や研究機関との共著の論文や学会発表を進めるだけで無く、本研究を足がかりとして、より今後の恒久的な共同研究を推進するための試みも重要であると言える。とくに現在は、北極域を対象とした研究は、近年の地球温暖化を受けて国際的な注目も高く、我が国の海洋政策としても重要な位置づけがなされており、これを踏まえた、今後に繋がる共同研究の計画・構築も、本研究の重要な推進方策である。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 11件) 備考 (1件)
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