平成28年度は渡航準備期間として、渡航後に行う予定の研究内容に関する世界的な現状把握に勤めた。具体的には、関連テーマに関する日本語の図書を執筆した。内容は、枯死木の分解に関わる菌類群集が枯死木の中でどのように発達し、枯死木を分解していくのか、そのメカニズムに関して現在わかっている内容を、一般向けに平易な日本語でまとめた。これにより研究背景のレビューを行うことができたとともに、渡航後に集中して取り組むべき具体的なテーマを選定することができた。 木材腐朽菌には、材の構成成分であるリグニンとホロセルロースに対する選好性から大きく分けて白色腐朽菌と褐色腐朽菌が知られている。どちらの菌類が枯死木内に優占するかで枯死木の腐朽型が決まり、枯死木に関係する様々な生物群集や枯死木からのCO2放出量にも影響が及ぶ。このことから、枯死木内で白色腐朽菌と褐色腐朽菌のどちらが優占するかは生態学的に非常に重要なテーマである。本研究では、菌類の菌糸体同士が出会った時に起こる生理学的な変化を室内実験により測定することで。菌糸体同士の競争関係がどのように枯死木内部での菌類群集発達を決定するか、そのメカニズムを明らかにすることを目的としている。具体的には、木材ブロックに菌糸を接種したものを複数菌種分作成し、これを様々な組み合わせで結合させて培養することにより、他種の菌糸体同士が出会った際に材ブロックの分解がどう変化するかを調べる予定である。
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