研究課題
トウヒ属は北半球の温帯以北の地域において広く優占する林業上重要な針葉樹であり、倒木上に実生が更新するという特徴をもつ。そのため、実生の定着には倒木の分解様式が大きな影響を及ぼす。菌類による倒木の分解様式は、倒木の構造成分であるリグニンとホロセルロースに対する分解比率の違いを類型化した「腐朽型」に区分され、褐色腐朽と白色腐朽が主に知られている。このうち褐色腐朽はpH が低下することなどによりトウヒ属実生の定着を阻害することが知られている。申請者がこれまでに行った調査では、緯度による気候条件の違いが倒木の菌類群集に影響し、これにより低緯度ほど褐色腐朽の頻度が高く、そのことが倒木上の樹木実生群集に影響することが分かっている。しかし、本邦よりも高緯度の地域における倒木の腐朽型の分布パターンや樹木実生との関係はまったく分かっていない。そこで本研究では、本邦よりも高緯度に位置する欧州の森林において、トウヒと同属のドイツトウヒの倒木を対象として、腐朽型の分布パターンと樹木実生の関係を緯度に沿って明らかにする。さらに、倒木の腐朽型を決定している菌類群集の発達メカニズムの解明を目指し、菌類生理学的な室内実験を行う。2018年度はノルウェー、ルーマニア、ブルガリアの11か所の森林において野外調査を行い、ドイツトウヒ倒木370本から材サンプルおよびドイツトウヒ実生密度データの採取を行った。これにより、昨年度のサンプルと合わせ、合計6カ国16ヶ所において600本以上のドイツトウヒ倒木からサンプルおよびデータを採取することができた。同時に、純粋培養菌株12種32菌株を用いて、角材上での菌種間競争における温度条件の影響を調べる培養実験を並行して行った。これにより、10度、20度、30度の3段階の温度における菌種間競争の勝敗および材分解機能に関するデータおよびサンプルが得られた。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では10か所程度の森林においてフィールドワークを行う予定であったが、ノルウェーで予想外に多地点で調査できたことに加え、新たにブルガリアの調査地を確保できたことから、当初の計画よりも多くの点からサンプルおよびデータを得ることができた。これにより緯度に沿ったクラインの検出精度をあげることができると考えられる。しかし、サンプル量が当初の計画よりも増えたことから、解析に予定より時間がかかることになり、研究課題の実施期間を1年間延長することになったため。
野外から採取した材サンプルからのDNA抽出とシーケンスを進め、菌類群集の解析を進める。また、材サンプル中のリグニンおよびホロセルロースの定量を行い、材分解の定量化を行う。培養実験から得られたサンプルに関しても、リグニン・ホロセルロースの定量を進めるとともに、競争結果のデータの解析を進める。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 2件、 査読あり 9件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 7件、 招待講演 2件)
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