研究課題/領域番号 |
15KK0277
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
山本 洋嗣 東京海洋大学, 学術研究院, 助教 (10447592)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2018
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キーワード | 地球温暖化 / 気候変動 / 指標生物 / 温度依存型性決定機構 / 遺伝型性決定機構 / 性転換 |
研究実績の概要 |
多くの脊椎動物は受精時の性染色体の組み合わせによって性が決まる「遺伝的性決定機構:GSD」を持つが、魚類ではこのGSDに加え、性決定時期(多くは孵化直後)の環境水温によって遺伝的性が上書きされる「温度依存型性決定機構:TSD」を併せ持つ種が多く存在する。しかし、環境刺激である水温が、どのように雌雄の性分化シグナルに変換され、遺伝的性を上書きするのか、その仕組みは未解明な点が多い。申請者は近年、その高い性の温度依存性からTSDのみを保持すると考えられてきたペヘレイO.bonariensisにおいて、Y染色体上に雄性決定因子amhyが存在することを発見し、本種は中立的な水温ではY染色体、すなわちamhyの有無に従って性が分化することを発見した。つまり、本種はTSDとGSDを水温によって選択的に発動するため、両者の関わりを解明する上で優れたモデルとなりえる。本研究では、魚類において遺伝的性決定と温度依存型性決定がどの様にせめぎ合い性が決定されていくのか、その機構解明を最終目標とし、本年度、米国海洋大気局NOAA NWFSCのJ.A. Luckenbach博士らと国際共同研究をスタートさせた。具体的には、ペヘレイ稚魚を全雌(17℃)および全雄(29℃)作出水温で飼育し、性決定時期である孵化後4~5週目に各区の稚魚より生殖腺のみを摘出した。生殖腺を採取した個体の遺伝型性を判別した後、17℃区のXX-雌とXY-雌および29℃区のXX-雄とXY-雄由来の生殖腺mRNAを次世代シーケンスを用いたトランスクリプトーム解析に供した。現在、先方研究機関と共同で各遺伝型および水温区におけるの稚魚生殖腺の発現遺伝子の比較解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本国際共同研究においては、①北米における地球温暖化・気候変動が魚類の性へ与える影響評価技術の開発、②水温に起因した生殖腺性差構築の遺伝的制御機構の解明という2つの研究項目が予定されている。本年度は、まず②の項目に着手し、飼育試験および次世代シーケンスを用いたトランスクリプトーム解析を開始した。高水温および低水温により雌雄に性分化したXXおよびXYの両遺伝型個体の生殖腺由来cDNAライブラリーを得ることができた。現在、発現遺伝子の比較解析を進めている。また項目①に関しては、本年度は米国内の研究協力者(フロリダ大学)より調査対象種である北米原産トウゴロウイワシの生殖腺サンプルを入手することができ、性分化関連遺伝子群の単離に着手することができた。以上のことから、本研究課題は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は再度渡米し、受入れ研究機関のバイオインフォマティクスの専門家らと、17℃区のXX-雌とXY-雌および29℃区のXX-雄とXY-雄由来の生殖腺発現遺伝子のトランスクリプトーム解析を行い、環境水温ががどのようなメカニズムで遺伝型性を上書きするのか、本種の温度依存型性決定機構の解明を目指す。さらに、北米原産トウゴロウイワシの性分化関連遺伝子群を継続するとともに、遺伝型性判別マーカーの単離にも着手する予定である。
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