研究課題/領域番号 |
15KK0277
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
山本 洋嗣 東京海洋大学, 学術研究院, 助教 (10447592)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2019
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キーワード | 地球温暖化 / 気候変動 / 指標生物 / 温度依存型性決定機構 / 遺伝型性決定機構 / 性転換 |
研究実績の概要 |
多くの脊椎動物は受精時の性染色体の組み合わせによって性が決まる「遺伝的性決定機構:GSD」を持つが、魚類ではGSDに加え、性決定時の環境水温によって遺伝的性が上書きされる「温度依存型性決定機構:TSD」を併せ持つ種が多く存在する。このような種は、GSDとTSDの相関を解明する上でのモデル生物として有用であり、また、昨今問題となっている地球温暖化による異常水温が魚類性分化機構に与える影響を評価するうえでの優れた指標種となりえる。これらを背景に本研究では、「1:水温に起因した生殖腺性差構築の遺伝的制御機構の解明」と「2:北米における地球温暖化・気候変動が魚類の性へ与える影響評価技術の開発」という2課題に取り組んでいる。本年度、課題1では、南米原産トウゴロウイワシ稚魚を全雌(17℃)および全雄(29℃)作出水温で飼育し、17℃区のXX-雌(通常雌)とXY-雌(性転換雌)および29℃区のXY-雄(通常雄)とXX-雄(性転換雄)由来の生殖腺mRNAを次世代シーケンスによるトランスクリプトーム解析に供した。その結果、全雌作出水温である17℃区では遺伝型性に関わらず全ての個体が雌に分化し、XXとXY間で有意に発現量の異なる99遺伝子を単離することができた。一方、全雄作出水温である29℃区では遺伝型性に関わらず全ての個体が雄に分化し、XXとXY間で有意に発現量の異なる363遺伝子を単離することができた。これら遺伝子群は、環境要因が遺伝型性を上書きする際に生殖腺内で発動する未知の性決定/性分化経路に関与している可能性が高い。現在これら遺伝子の性決定過程における生物学的機能を推察するため遺伝子間のネットワーク解析およびパスウェイ解析に取り組んでいる。また課題2に関しては、本年度は北米、ヨーロッパ、アジアの複数種のトウゴロウイワシ目魚類の遺伝的性判別マーカー単離へ向けたサンプリングを行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(課題1)本年度は米国海洋大気局(NOAA)を訪問し、当該海外研究協力者とともに水温により雌雄の性転換を誘起したトウゴロウイワシ目魚類の生殖腺を用い、次世代シーケンサーによるトランスクリプトーム解析を行った。その結果、性転換個体と非性転換個体(XY-雌 vs XX-雌、XX-雄 vs XY-雄)において発現量に差がある生殖腺発現遺伝子群を単離することができた。現在これら遺伝子の性決定過程における生物学的機能を推察するため遺伝子間のネットワーク解析およびパスウェイ解析に取り組んでいるが、生物情報学的解析に予定よりも時間がかかっているため、研究期間の延長申請を行い、次年度に継続調査することとした。 (課題2)本年度は、様々な海外研究協力者と連携し、ヨーロッパ、北米およびアジアに生息する複数のトウゴロウイワシ目魚類の遺伝的性判別マーカーの単離に向けたサンプリング収集を行った。さらに、フランス国立農業研究所(INRA)を訪問し、当該海外研究協力者と具体的な研究打ち合わせを行った後、実験手法の指導を受けた。しかし、渡仏までに解析に必要な野生サンプルの一部が十分に確保できなかったため、研究期間を延長し、予定していたpool-sex sequence解析は次年度に開始することとした。
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今後の研究の推進方策 |
(課題1)次年度は、低水温が誘起する雌性転換個体と通常の雌個体の比較により単離した99遺伝子、高水温が誘起する雄性転換個体と通常の雄個体の比較により単離した363遺伝子を用いた遺伝子間のネットワーク解析およびパスウェイ解析を継続して行い、未だ不明な点が多い遺伝型性決定と温度依存型性決定の共在機構解明を目指す。 (課題2)すでに解析に必要な調査対象6種の野生個体サンプルは収集できつつあり、集まり次第、pool-sex sequence解析を開始し、トウゴロウイワシ目魚類における性決定遺伝子の単離に取り組む。
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