研究実績の概要 |
魚類では「遺伝的性決定機構:GSD」に加え、性決定時の環境水温によって遺伝的性が上書きされる「温度依存的性決定機構:TSD」を併せ持つ種が多く存在する。本年度は未だ不明な点が多い「低温が誘起する雌への性転換(XY-卵巣)メカニズム」を明らかにするため、昨年度に得られた全雌作出水温区のXX-雌(通常雌)とXY-雌(性転換雌)由来の遺伝子発現データセットを用いて、パスウェイ解析(Ingenuity Pathway Analysis: IPA)を行った。その結果、両区ともに同じ表現型を示すにもかかわらず差異があると認められた有意なパスウェイは、calcium-signaling、protein kinase A signaling、opioid signaling、synaptogenesis signaling、endocannabinoid neuronal synapse pathwayであることが明らかとなった。さらに、これら遺伝子発現の差異を引き起こす上流制御因子を予測したところ、ESR1 (estrogen receptor 1)とTGFB1 (transforming growth factor beta 1)が有意な上流制御因子であることが明らかとなった。これらのことから、低温により遺伝的雄(XY)を雌(卵巣)に性分化させるためには、estrogenおよびTGF-βシグナル系が関与していることが示唆された。また、北米とアジアに生息する複数のトウゴロウイワシ(H. valenciennei, I. flosmaris, M. beryllina)を「地球温暖化・気候変動が魚類の性へ与える影響評価のための指標生物」として確立するため、各種約30個体を用いてpool-sex sequenceを行い、雌雄の特異的ゲノム情報を収集した。
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