研究課題/領域番号 |
15KK0281
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
松尾 栄子 神戸大学, 農学研究科, 助教 (40620878)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2019
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キーワード | 二本鎖RNAウイルス / 遺伝子改良法 / VP6 / cryo-EM |
研究実績の概要 |
本年度はまず、「ゲノムを取り込むことはできないが、構造を維持し、粒子中に取り込まれるVP6」を持つBTVの大量精製をした。2018年5月の国際学会にて、米国UCLAの共同研究者と、綿密な打ち合わせをすることができたので、UCLAに訪問せずに、英国ロンドン大学から直接UCLAにサンプルを送付した。Cryo-EM解析を行ったが、コア粒子の中のVP6の位置を特定することができなかった。現在、再度BTV粒子精製を行うとともに、タグを挿入することで、VP6のみが粒子中に取り込まれていることを確認できるように改良したIBAVを作製し、その粒子を精製している。次に、AHSV VP6のVP3結合領域の解析を試みた。BTVおよびIBAV VP6では、VP3結合モチーフはRXXXYFであるが、AHSV VP6の相同領域は、RXXXMFである。そこで、チロシンをメチオニンに置換したところ、この変異を持つIBAV VP6は、VP3結合能力を保持しており、かつ機能的であることが分かった。そこで、逆に、AHSV VP6のVP3結合領域と考えられる領域のメチオニンをアラニンまたはチロシンに置換した変異AHSVの作製を試みたところ、チロシン変異株のみ作製出来た。現在この変異AHSVの複製能力を確認中である。また、NMuLiでは、BTVやAHSVのウイルスタンパク質の発現が抑制されていることを明らかにした。さらに、BTVのplasmid-baseの遺伝子改変法を新たに樹立した。この方法を用いて、赤色蛍光タンパク質mCherryおよび、緑色蛍光タンパク質EGFPやUnaGで標識したBTVの作出に成功した。しかし、mCherry遺伝子は、不安定ですぐにゲノム中から切り出された。最後に、2015年に国内のダニから分離されたIBAVと同属のムコウイルスのVP6はBTVやIBAVのVP3と結合しないことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、ロンドン大学の施設の点検修理日程が数度、突然変更され、渡航期間中にずれ込んだため、予定していた実験を完遂することができなかった。しかし、本来の研究計画にはなかったが、BTVの新しい遺伝子操作系を樹立し、初めてBTVの内殻を蛍光色素で標識することに成功した。今回樹立した技術や蛍光標識BTVは今後様々な解析に用いることができると期待される。また、これも研究計画には含まれていなかったが、BTV、IBAV、AHSVとは異なり、ベクターがヌカカではなく、ダニ(アカコッコマダニ)である新規の同族ウイルス、ムコウイルを入手し、ベクターの異なる同属ウイルス間でVP6の比較が可能になったことは、本国際共同研究の「同属ウイルスの共通性・異種性」を明らかにするという目的の実現に向けて大きく前進したと考えられる。また、現在、これまで得られた成果を論文として発表する準備中である。よって、遅れてはいるものの、今後、挽回可能と考える。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、昨年度に引き続きCryo-EM解析の試料作製を行い、年度内にVP6の粒子内での状態を明らかにする予定である。また、2019年度も長期の渡英は困難であるため、国内で、ムコウイルスを用いた比較実験をメインに行う。さらに、英国では、蛍光標識BTVを用いた動態解析ならびに、AHSV VP6のVP3結合領域の解析を完了させる。これまで得られた成果をまとめ、論文を投稿する予定である。
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