本年度はまず、ダニ(アカコッコマダニ)をベクターとするムコウイルス(MUV)の遺伝子改変法(RGシステム)を樹立し、赤色蛍光タンパク質mCherryおよび、緑色蛍光タンパク質EGFPやUnaGで標識したMUVの作出に成功した。これらのウイルスと、蛍光標識イバラキウイルス(IBAV)および昨年度に作出した蛍光標識ブルータングウイルス(BTV)を用いて、共感染実験を行った。「同属ウイルスの共通性・異種性」を明らかにするため、まずウイルス複製の場であるウイルス封入体(VIB)に着目し、同属他種のウイルス共感染時における、VIB形成について解析した。IBAVとBTVが共感染した細胞ではIBAVとBTVはVIBを常に共有した。一方、IBAVとMUVが共感染した細胞ではそれぞれがVIBを形成する場合が多いが、共有した場合は、VIBのサイズが常に大きいことが分かった。次に、「ゲノムを取り込むことはできないが、構造を維持し、粒子中に取り込まれるVP6」を持つIBAVを精製した。VP6に挿入したタグによって、IBAV粒子にVP6が取り込まれていることを確認した。また、昨年度に引き続き、VP6のVP3結合領域の解析を行なった。MUVのVP6はIBAVのVP3との結合が非常に弱い。ヌカカをベクターとするBTVやIBAV VP6のVP3結合領域の配列はRATAYF であるが、MUV VP6の相同領域の配列はQAHILFと、二次構造は似ているが、配列は大きく異なっている。そこで、MUV VP6のVP3結合領域と考えられる部分をIBAV VP6のVP3結合領域と入れ替えたが、結合能力は改善しなかった。このことから、VP6のVP3結合領域は1箇所だけではないことが示唆された。最後に、マウス肝臓細胞でのMUVの増殖性を調べたところ、IBAVとは違い、MUVは増殖可能であることが明らかになった。
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