研究課題/領域番号 |
15KK0282
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
前田 恵 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (20434988)
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研究期間 (年度) |
2015 – 2017
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キーワード | 核細胞質レクチン / 環境ストレス / 遊離N-グリカン / aPNGase / ENGase / pseudomonas syringae / ハイマンノース型糖鎖 / 糖鎖ポリマー |
研究実績の概要 |
環境ストレス(塩,乾燥,気温,微生物感染など)により植物細胞の核と細胞質に発現誘導する「核細胞質レクチン」が,リガンドとなる「糖鎖」と,どのように相互作用し生理機能を担っているかは未だ解明されていない。一方で,糖タンパク質から切り離された遊離N-グリカンは植物の分化・生長や果実熟成を促進するホルモン様活性を有すると予想されている。そこで本研究では,「植物N-グリカンが核細胞質レクチンと相互作用し,植物生理に関わる新しいシグナル経路となることを明らかにする」ことを目的とした。そこで本年度は,(1)A. thalianaのN-グリカン遊離酵素である酸性PNGase(aPNGase)欠損体およびエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(ENGase)欠損体を用いて,NaCl処理(50,100 mM)による発芽率を解析した。その結果,いずれの欠損体についても,野生株と同様に100 mMのNaCl処理で発芽率が低下した。続いてpseudomonas syringaeによる感染への影響を感染領域(%)とpseudomonas syringaeのゲノム量から解析したが,いずれの欠損体も野生株との間に大きな違いは認められなかった。(2)これまでに作製したハイマンノース型糖鎖を多数結合させた糖鎖ポリマーを用いて,レクチン活性を検出する新しい実験系の確立を行った。(3)植物抗原性糖鎖の代謝分解に関わるトマトα1,3/4-fucosidaseの候補遺伝子について,細胞内局在解析をタバコBY2細胞とN. benthamianaを用いて試みた。またトマトα1,3/4-fucosidaseの候補遺伝子Solyc11g006910の遺伝子産物について昆虫細胞Sf9による組換えタンパク質の発現と酵素学的諸性質の検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,(1)4月から10月まで約6ヶ月間ゲント大学に滞在し,A. thalianaのaPNGase欠損体およびENGase欠損体について,非生物(NaCl)・生物(pseudomonas syringae)による環境ストレス実験を行った。変異体の結果は,野生株の結果と比較して大差なかった。得られた成果は,10th Tri-National Arabidopsis Meeting 9月14~16日(ウィーン,オーストリア)にてポスター発表した。また,Aphidによる環境ストレス実験も計画したが,実験手法を学ぶところまでに留まった。今回の滞在中には,ウィーン大学のRichard Strasser先生と新しく共同研究を始めることになった。(2)3月の3週間に渡るゲント大学滞在中には,糖鎖ポリマーとレクチンの相互作用評価方法を確立するための予備実験を行った。(3)植物抗原性糖鎖の代謝分解に関わるトマトα1,3/4-fucosidaseの候補遺伝子について,細胞内局在解析をタバコBY2細胞とN. benthamianaを用いて試みた。5月から10月までの約5ヶ月は,Dr. Md. Ziaur Rahmanを特任助教として雇用し,日本でトマトα1,3/4-fucosidaseに関する研究を進めてもらった。
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今後の研究の推進方策 |
(1)A. thalianaのaPNGase欠損体およびENGase欠損体において,野生株と比較しても環境ストレスによる大きな影響は観察されなかった。今後は,完全に遊離N-グリカンを欠損した植物体の構築を進める予定である。ウィーン大学のRichard Strasser先生と新しくスタートさせた共同研究の成果の一部は,次年度4月にウィーンで行われるCBM12でポスター発表する。(2)ハイマンノース型糖鎖,動物複合型糖鎖,植物複合型糖鎖をγポリグルタミン酸に多数結合させた糖鎖ポリマーを準備し,共同研究者のEls Van Damme教授より譲渡して頂いた既報の植物レクチン(MornigaMやMornigaGなど)との相互作用を実験的に評価する方法を確立する。また,植物の核細胞質レクチンやレクチン受容体様キナーゼと糖鎖の相互作用を明らかにするため,各種糖鎖ポリマーを用いて,内在性のレクチンタンパク質の精製や同定を試みる。(3)植物抗原性糖鎖の代謝分解に関わるA. thalianaおよびトマトα1,3/4-fucosidaseの候補遺伝子について,細胞内局在解析をタバコBY2細胞とN. benthamianaを用いて試みる。これまでの結果から,EGFP融合タンパク質が発現過程で分解されていると予想されたため,α1,3/4-fucosidaseに特異的な抗体を作製するなど別の手法も考慮する。
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