植物細胞に遍在する遊離N-グリカン(FNGs)は,糖タンパク質からPNGaseやENGaseにより生成され植物の分化・生長や果実熟成を促進するホルモン様活性を有すると推定されている。また近年,植物細胞には様々な機能未知レクチンが発現しており,それらのいくつかは環境ストレス(塩,乾燥,気温,微生物感染など)により発現誘導することが報告されている。そこで本研究では,「機能未知レクチンがFNGsと相互作用し植物の分化・生長を制御する糖鎖シグナルとなる」と予想した。本年度は,糖鎖ポリマーを合成し核/細胞質レクチンのスクリーニングを試みた。ハイマンノース型糖鎖を多価結合させた糖鎖ポリマーを作製し,マンノース特異的レクチンMorniga Mと結合することをゲルろ過により確認した。次いで,糖鎖ポリマーがダイズ実生胚軸由来可溶性タンパク質と複合体を形成することを,ゲルろ過およびSDS-PAGEにより確認した。これらの糖鎖ポリマー結合タンパク質は,植物細胞内でFNGsと相互作用していると考えられ,N末端アミノ酸配列解析やペプチドマッピングによる同定を試みている。一方で,非還元末端にガラクトース残基を有する複合型糖鎖を多価結合させた糖鎖ポリマーは,ガラクトース特異的レクチンMorniga Gと結合したが,ダイズ実生胚軸由来可溶性タンパク質とほとんど複合体を形成しなかった。この結果から,ダイズ実生胚軸由来可溶性タンパク質には,ガラクトース結合タンパク質はほとんど発現していないと考えられた。昨年度,ストレス応答解析に使用したA.thalianaはFNGsを完全に欠損していないことが糖鎖構造解析により明らかになった。研究期間全体を通して,今後はFNGsを完全に欠損した植物体を構築し,機能未知レクチンを介した糖鎖シグナリングの植物細胞における生理学的重要性について解明する必要があると考えられた。
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