研究課題/領域番号 |
15KK0286
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
野副 朋子 明治学院大学, 教養教育センター, 講師 (90590208)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2018
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キーワード | 鉄 / ムギネ酸 / ニコチアナミン / イネ科植物 / 石灰質土壌 / 鉄欠乏 |
研究実績の概要 |
ムギネ酸類は、土壌中から必須元素である鉄を獲得するためにイネ科植物が根から分泌する三価鉄キレーターである。ムギネ酸類はその前駆物質であるニコチアナミン(NA)とともに、植物体内や細胞内の鉄の移行や輸送も担う。また、植物体内における鉄欠乏シグナル伝達物質として鉄恒常性維持にも関与すると考えられ注目されている。申請者はムギネ酸類とNA分泌を担うトランスポーター、TOM・ENAを単離・同定した。また、ムギネ酸類生合成経路で働く酵素の一つであるNA合成酵素遺伝子OsNAS2とsGFPとの融合遺伝子を導入したイネを作出し、OsNAS2-sGFP融合タンパク質が細胞内において顆粒状に局在することを見出した。本国際共同研究はドイツの研究者が開発した最先端の実験手法を用いてOsNAS2-sGFP導入イネを用いたムギネ酸類・NAを介した鉄恒常性維持機構の解析と、TOM1やENA1に相同性の高い遺伝子群TOM・ENAファミリーの機能解析を行う。 H29年度は明治学院大学において在外研究を取得し、ドイツの研究機関での研究を行った。4~6月にはドイツLeibniz Institute of Plant Genetics & Crop Plant Research (IPK)のvon Wiren教授の研究チームに滞在して、OsNAS2-sGFP導入イネにおける鉄と結合していないフリーの状態のムギネ酸やNA含量を測定した。9~12月にはドイツバイロイト大学のClemens,S.教授の研究チームに滞在して、ニコチアナミン合成酵素を導入したShizosaccharomyces pombeを用いて安定同位体窒素15Nで標識したNA(15N-NA)の合成・精製を行った。さらにドイツだけでなく、スペイン、イタリア、オランダの研究者を訪問し鉄欠乏が顕著化している農地や近代型農業施設の視察やディスカッションを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
4~6月に滞在したドイツIPKのvon Wiren教授の研究チームでは、ESI-MS/MS法により、申請者の作出したイネのニコチアミン合成酵素OsNAS2と緑色蛍光タンパク質GFPの融合タンパク質を発現するOsNAS2-GFP形質転換イネ、及び非形質転換の導管液におけるニコチアナミン・デオキシムギネ酸の形態変化を測定した。植物サンプルを用いた計測を行うにあたり、解決しなくてはならない問題点がまだ残されているが、金属と錯体を形成していない状態のニコチアナミン・デオキシムギネ酸の測定に成功した。さらに、ドイツZeiss社の共焦点レーザー顕微鏡780、及び、Super Resolution Microscope System Elyra PS. 1により、OsNAS2-GFP融合タンパク質が組織及び細胞内のどこに局在しているか観察を行い、根の部位によって細胞内局在が変わる可能性がある知見を得ることができた。 9~12月には、バイロイト大学のClemens教授の研究チームに滞在し、当該研究室が確立した、緑色蛍光タンパク質とシロイヌナズナのニコチアナミン(NA)合成酵素の融合遺伝子GFP-AtNAS1を発現する分裂酵母S.pombeによる放射性同位体窒素標識NA(15N-NA)の合成方法を習得した。最もNA合成量の高い条件の検討は行われていなかったため、タイムコース実験、及び培地組成の検討を行い、最適な合成条件を見出した。また、同研究チームではGFP-AtNAS1融合タンパク質が細胞内の顆粒に局在する可能性を見出していたが、その詳細は明らかにされていなかった。この顆粒は申請者がイネにおいて見出していたOsNAS2-sGFP顆粒と類似したものであると考えられた。そこで、分裂酵母におけるGFP-AtNAS1顆粒の解析を行い、栄養条件で顆粒への局在が制御されている可能性を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
IPKで行ったESI-MS/MS法では、金属と錯体と形成していないフリーの状態のムギネ酸類・NAを測定することができた。一方で、鉄と錯体を形成したムギネ酸類・NAは標品がないため、検量線をひけないという問題点がある。また、植物体内ではムギネ酸類・NAは鉄だけでなく亜鉛やマンガンなどの他の金属とも錯体を形成するが、金属種の違いでの分子量の差が微小であり、通常のMSでは分離できない。ただ、本申請研究では、植物体内に存在する鉄含量に対してムギネ酸類やNA含量が多くなった場合には、鉄と結合していないフリーの状態のムギネ酸やNAの割合が増加し、これらの存在量が植物の鉄感知に関与している可能性を評価することを目指している。従来のHPLC法では金属との錯体の形成状態に関わらず、ムギネ酸類・NAの全量を測定していると考えられる。そこで、同サンプルをESI-MS/MS法、HPLC法で測定することにより、フリーの状態のムギネ酸類・NAの存在量が鉄含量により変化するか検討する予定である。 バイロイト大学では15N-NAの合成方法を習得した。今後は合成した15N-NAを精製する方法を検討する。また、同手法を用いた15N-デオキシムギネ酸(DMA)の合成も検討したい。合成した15N-NA や15N-DMAはNanoSIMSに応用し、植物体内及び細胞内におけるムギネ酸類・NAの局在を可視化する方法の開発を行う。また、GFP-AtNAS1融合タンパク質が細胞内で顆粒状に局在していたことから、分裂酵母においてもNAが何らかの小胞で合成される可能性が示唆される。この顆粒と金属栄養との関係を、GFP-AtNAS1融合タンパク質の発現パターン変化を調べることにより解析したいと考えている。
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