ムギネ酸類は、土壌中から必須元素である鉄を獲得するためにイネ科植物が根から分泌する三価鉄キレーターである。ムギネ酸類はその前駆物質であるニコチアナミン(NA)とともに、植物体内や細胞内の鉄の移行や輸送も担う。また、植物体内における鉄欠乏シグナル伝達物質として鉄恒常性維持にも関与すると考えられ注目されている。申請者はムギネ酸類とNA分泌を担うトランスポーター、TOM・ENAを単離・同定した。また、ムギネ酸類生合成経路で働く酵素の一つであるNA合成酵素遺伝子OsNAS2とsGFPとの融合遺伝子を導入したイネを作出し、OsNAS2-sGFP融合タンパク質が細胞内において顆粒状に局在することを見出した。本国際共同研究はドイツの研究者が開発した最先端の実験手法を用いてOsNAS2-sGFP導入イネを用いたムギネ酸類・NAを介した鉄恒常性維持機構の解析と、TOM1やENA1に相同性の高い遺伝子群TOM・ENAファミリーの機能解析を行う。 R1年度は、ニコチアナミン合成酵素を導入したShizosaccharomyces pombeを用いて合成した安定同位体窒素15Nで標識したNA(15N-NA)を、ニコチアナミン合成酵素遺伝子を欠損したトマト鉄栄養変異体クロロネバに供試し、nanoSIMSによる観察を行った。15Nのシグナルが導管壁周辺に蓄積している様子が観察された。15N集積量は14Nに対する15Nの自然存在比に比べて有意に高いことから、供試した15N-NAに由来するものであると考えられた。また、15Nは導管周辺の細胞内に高蓄積していたことから、15N-NAは導管から取り込まれた後、周辺の細胞内に輸送されていると考えられた。細胞内においては、液胞内における15Nのシグナルが細胞質に比べて高い傾向にあることから、15N-NAは細胞に取り込まれた後、液胞に輸送されていると考えられた。
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