効率的に魚類養殖を推進するには,魚類の摂食・栄養素利用の調節機構に着目した技術開発が有効と考えられる。レプチンは食欲調節と栄養素の利用効率に重大な役割を果たす内分泌因子として知られている。しかし,魚類ではレプチンがどのようなメカニズムで栄養代謝を調節するのか等は不明である。そこで基課題では,効率的な養殖技術開発へ向けた基盤研究として,メダカをモデルに魚類レプチンの機能解析を行っている。本課題は基課題を発展させるものとして,メダカとの比較研究に適したゼブラフィッシュにおけるレプチンの機能解析を主な目的としている。 H28年度は,ノルウェーでの研究準備として,動物実験計画書を作成し現地での実験承認を得た。H29年度は研究準備が整ったことから,ノルウェーへ渡航しベルゲン大学での在外研究を開始した。 本在外研究では,まず魚類全体のレプチン機能を明らかにするための研究ツールとして,CRISPR/Cas9システムを用いてレプチン受容体が欠損したゼブラフィッシュの作出を試みた。データベースより入手した配列を基に3種のsgRNAを作製し,Cas9 mRNAと共に1細胞期の受精卵へ顕微注入することで変異導入を試みた。HRM(High Resolution Melting)法によって変異導入の効率を確認し,最も効率よく変異が導入されたsgRNAを用いてF0変異導入個体を作出した(変異導入効率:97%)。ここで作出した変異導入個体はモザイク様に複数の変異を持つことから,野生型と掛け合わせたF1の標的ゲノム配列を読むことで,機能欠損が予想される単一の変異をヘテロに有する個体を単離した(変異の生殖細胞系伝達率:91 %)。さらに単離したヘテロ変異個体同士を掛け合わせることで変異遺伝子をホモに持つ個体を作出した。本研究によって作出した変異体は,16塩基挿入によるフレームシフト変異によってリガンド結合領域以後が翻訳されないものであり,完全な機能欠損が引き起こされると考えられる。
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