前年度までに渡航時の研究内容について海外共同研究者と綿密なディスカッションを行なっていたため、本年度はUniversity California Berkeleyに渡航しスムースに実際の実験の実施を行った。まず、目的として設定した浸透圧ストレス応答における細胞間のバリエーションを検出するために利用するシングルセルウェスタン法の習得を行った。共同研究者の研究室でスタンダードに行われていたU251細胞を用いたシングルセルウェスタン法を練習台として、フォトリソグラフィー等、微小構造体の作成を習得したのち、本研究のテーマとして、モノサイトの細胞株であるRaw264.7細胞における高浸透圧誘導性のNFAT5依存的遺伝子発現のバリエーションの解析と、HeLa細胞における高浸透圧ストレス依存的なMAPK(ERKおよびp38)のリン酸化の変化の解析を試みた。 Raw264.7細胞の遺伝子発現については、シングルセルウェスタン法を用いることで免疫応答関連遺伝子など特定の遺伝子発現に期待どおり全か無かに近い大きなバリエーションが観察されることが明らかになると同時に、細胞間バリエーションをあまり示さない遺伝子発現もあることが明らかになった。つまり、同じNFAT5に制御され高浸透圧ストレスで誘導される遺伝子発現でも異なるメカニズムにより制御されていることが示唆された。これは、通常のウェスタン法では区別できず、今回の国際共同研究により始めて明らかにすることができた現象である。 MAPKのリン酸化については、シングルセルウェスタン法の手技の過程で必須となる細胞の剥離が刺激となり、浸透圧ストレス依存的なリン酸化が保存されないという問題が起き、今回の渡航期間においては正確に検証することはできなかった。一方、この問題点を解決するために渡航先の研究室と帰国後も共同研究を行っており、細胞の剥離を必要としない新しいシングルセルウェスタン法のデバイスの開発につながるものと期待される。
|