高齢化社会において,加齢や疾患に伴う嚥下障害は誤嚥や窒息を引き起こす可能性があり,大きな問題の一つとなっている.嚥下後誤嚥は,梨状窩や喉頭蓋谷など咽頭内に残留したものや口腔内に残留した食塊が喉頭内に侵入し,誤嚥に至るものである.嚥下時には,口腔内圧(舌圧)と咽頭圧との協調した圧伝搬が必要とされている.この圧伝搬の協調が失われると,咽頭残留の原因となる.しかし,これまで舌圧や咽頭圧を個別に測定した研究は数多く報告されているものの,舌圧と咽頭圧を同時に測定し,圧伝搬の詳細を検討したものはない. 我々はこれまで,オリジナルの舌圧測定用のセンサシートを開発し,嚥下時の舌圧発現様相を詳細に検討してきた.一方で,ウィスコンシン大学のProf. McCullochのグループは,ハイレゾリューションマノメトリーを用いて,詳細な咽頭圧の検討を行っている.そこで今回,ウィスコンシン大学マディソン校を訪問し,我々の開発した舌圧センサシートとハイレゾリューションマノメトリーを同時計測し,口腔から咽頭への詳細な圧伝搬の分析を行った.その結果,水嚥下時には前方部における舌圧もしくは上咽頭部の圧が最初に発現し,舌圧・中咽頭・下咽頭の圧はほぼ同じような時間に消失していた.また,舌圧持続時間は食道入口部開大時間よりも長かった.これらの傾向は,嚥下量や液体の粘度が異なっても保たれており,舌圧・咽頭圧の協調した圧伝搬を明らかにすることができた. さらに,嚥下障害患者における咽頭圧と嚥下造影を分析し,咽頭残留に影響する因子を,多変量解析を用いて検討した.その結果,喉頭蓋谷残留には奥舌部の咽頭圧と舌骨移動量が関係し,梨状窩残留にはUES開大量が関係していた.
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