研究課題
A群レンサ球菌はヒトを唯一の宿主とし,膿痂疹や咽頭炎などの局所性化膿疾患を惹き起こす.これらの病態の治癒後に,急性リウマチ熱や急性糸球体腎炎などの二次性疾患が起こる場合があり,特に発展途上国では社会的問題となっている.さらに,敗血症,壊死性筋膜炎,ショック症状などを伴う劇症型レンサ球菌感染症が発症する場合があり,致死率は約30 %にも及ぶ.近年,感染者数は増加傾向にある一方,上市されているワクチンは存在せず,抗菌薬に依存する治療が行われている.したがって,新たな治療法や予防法の開発が望まれている.本菌による病態発症機構は完全には解明されていないが,感染成立の初期段階において,菌体がヒト組織へ特異的に付着すると考えられている.これまで,A群レンサ球菌が産生する線毛は組織特異的な付着因子として推察されてきた.A群レンサ球菌の定着を感染初期段階において抑制が感染制御に有効であると考え,線毛発現機構の解析を行った.昨年度に引き続き,国際共同研究者と共に様々な血清型の臨床分離株が温度依存性に線毛を発現するかについて解析を行った.その結果,線毛遺伝子領域に特定の型を呈する菌株が,通常の培養温度と比較して低温時に線毛を産生することが示唆された.線毛遺伝子群の転写は低温で上昇したことから,温度感受性の線毛発現を担う転写因子を探索した.その結果,線毛遺伝子領域にコードされる転写因子が線毛遺伝子群の正の制御因子であり,転写因子のmRNA量は培養温度により変化せず,翻訳量が環境温度により制御されることが示唆された.
2: おおむね順調に進展している
様々な血清型の臨床分離株について,培養温度の線毛発現への影響を検討するとともに,温度感受性線毛発現を担う転写因子を明らかにしたことから,順調に進展していると考えられる.
今後,培養温度の違いがメタボロームに影響を与え,線毛の発現機構に関与するかについて解析を行う.また,温度感受性の線毛発現が感染過程において意義があるかについて,感染実験を行い検討する予定である.
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