個体レベルでmiR-30dが心房細動の病態形成にどのように関わるかを解析する目的で、miR-30d過剰発現ラットを作製したが、miR-30d陽性個体のうち特にオスはより脆弱で短命であるため継代及び系の樹立が困難であることがわかった。このため、我々は申請書にも記載したとおり同ラットの作製時に構築した心筋特異的miR-30d過剰発現プラスミドを大量培養・精製して、正常ラットの頚静脈から注入しex vivoで心電図記録を行って不整脈の発生頻度を評価した。miR-30d過剰発現プラスミドを投与した群では投与前後で心電図波形やパラメータに変化はなく不整脈の発生は認められなかった。このため我々はAngiotensin II(Ang II)を浸透圧ポンプで慢性投与し細胞内過負荷病態モデルラットを作製し、同プラスミドを投与することで治療効果があるか否か検討したところmiR-30dは障害を受けた心筋に対する保護作用を示すことが判明した。一方、miR-30d過剰発現ラットの作製が当初の予定よりも難航したため、昨年度から引き続き細胞機能評価系をより強化するための実験系を新たに取り入れた。心房細動発症のメカニズムの一端を解明するために、miR-30dが病態心筋のミトコンドリア機能に対してどのような作用を示すかについて国際共同研究先のDREXEL大学において新たに開発された初代培養細胞を用いた評価系により心房細動による酸化ストレスが心房筋ミトコンドリア機能障害を引き起こすメカニズムの解明を試みた。心筋の生理学的硬度を模したポリアクリルアミドゲル上で培養した心筋細胞は、酸化ストレスによる心筋ミトコンドリア障害をより正確にとらえることができた。以上の結果より、miR-30dは心筋細胞障害時に発現が亢 進することで心筋保護作用を示す新たな分子である可能性が示唆された。
|